「死? 恐くなきゃ困るだろ」


リカの問いにきょとりと目を丸くしたまま《転校生》は言った。


「でなきゃ避けようがない」


なら一体どうして此処へ来たのだろうか。
リカに殺されに来たということは、
つまり彼は『死』を恐れてはいないということのはずなのに。
けれど彼は『死』は『恐い』という。
『死』は『恐い』ものでなければ『困る』という。
おかしな人。
意味が分からない。


「避ける必要なんてありませんわ」
「どうして?」
「だってお父様がいくらでも代わりを用意して下さいますもの」
「うーん、堂々回りだなぁ」


そう、お父様が連れて来て下さる。
ベロックだって連れて来てくれた。
リカが石で頭を割って動かなくなってしまった可愛いベロックは、
すぐ次の日にはちゃんと元気になってリカの元へ戻って来てくれた。
お父様が連れて来てくれた。
ベロックだけじゃない。
おもちゃも、友達も、家庭教師も。
無くなればすぐに別の物を宛てがってくれたし、気に入らなければすぐに取り替えてくれた。
お母様こそまだだけれど、いずれは必ず連れて来てくれる。
そう、イザナギとイザナミのように。
お父様がお母様をリカの元へ連れて戻って来てくれるの。


「よし。じゃあ試してみよっか」
「え?」
「本当にお父様が代わりを連れて来てくれるかどうか…」


ガッシャン、と。
大きな銃で乾いた音を鳴らして《転校生》は笑う。


「───どこまでお父様が代わりを連れて来てくれるか試してみよう」


にっこり、と。
綺麗に整った笑みを浮かべたまま一瞬で子蜘蛛達を文字通りにも散らして《転校生》は言う。
「さあて、リカちゃんのお父様はどこまで俺に食らい付いてこれるかな?」と。
「俺、仕事が早いからね。お父様はかーなーり頑張らないと」と。
鼓膜を痺れさす銃声の音。
鼓膜を突き刺す蜘蛛達の断末魔。
お父様の声は聞こえない。
これじゃ優しいお父様の声が聞こえない。


「お父様が…お父様が連れて来て下さる…」


大丈夫、お父様が連れて来てくれる。
可愛いリカのために、お父様が代わりを連れて来てくれる。
ベロックがそうであったように。
おもちゃがお友達が家庭教師がそうであったようにお父様が可愛いリカのために。


「連れて来て下さる…お父様、が…連れて、……早く、代わりを…っ」


早く、早く連れて来て。
でないと。

でないとリカは───


「なぁ皆守、リカちゃんの"代わり"ってどんなんだろうなー?」


違う、リカの、リカの代わりなんて───


『父様が新しいベロックを連れてきてあげよう』


違う違う違うリカはベロックとは違う違うのリカはベロックとは───





「なぁ"新しい"ベロックはどれぐらい可愛かった?」





恐い恐い恐いこのテンコウセイがベロックがオトウサマがオカアサマがシが恐い