「誰もアタシの気持ちなんて判らない…アタシの気持ちなんて!!」


生物学的に有り得ない表面積を誇るその顔を上下左右にと存分に振り乱し、
薔薇の刺繍入りハンカチを噛み千切る勢いで朱堂茂美はそう嘆き叫んだ。


「───この馬鹿野郎が!!」
「オぶゥッ!!?」
「きゅ、九ちゃん!?」
「…アイツ、結構腕力あるのな」
「花のように美しく、蝶のように優雅に、森を駆ける子鹿の如き女になれないのなら、
 花のように美しく、蝶のように優雅に、森を駆ける子鹿の如く、
 女も平伏すようなビューティーハンターとして生きていけばいいだろう!!」
「はうッ!!?」
「………。」


ズビシッと人さし指を突き付けて男前にもそう宣った葉佩に、
どんなノリとキャラだよお前と、そりゃ星一徹か?と、
ツッコんだのは惜しくも今この場には皆守だけだった。


「『誰もアタシの気持ちなんて判らない』?
 甘ったれるな!
 結局お前は男の肉体を限界と称して及ばぬ努力の慰めてただけだろう。
 そんなのは負け犬だ! いや、もはや捨て犬だ!!」
「あァんッ!!」
「『捨て犬』の意味が判らねェよ」
「限界なんてものは超えてみるまで誰にも判らないんだよ!」
「ふぁアんッ!!」
「いや、尤もそうなこと言ってるけどな。
 超えずとも最初から判ってる限界ってのもあるだろ。
 コイツの場合は性別とか、顔のデカさとか」
「そうだよ! 夢は諦めたらそこで終わりなんだよ朱堂クンッ。
 …ううん、茂美ちゃん!」
「あァ…ッ!!」
「………」





俺帰っていいか?いいよな?というか帰らせてくれよいやむしろ帰らせろ、と。
アロマパイプと共に己の不幸をキツク噛み締める皆守だった。