「弾が切れないなら、銃を切らせばいい」


───ガッシャン

バネの弾ける音と共に、つい数秒前に自分のハンドガンを撃ち砕いた軍用マシンガンを、
片手で軽々とこの額へと突き付け男は言った。


「よう、ミリタリーマニア。
 戦争ごっこは堪能できたか?」


額に触れる、冷たい銃口の感触。
それがぐっと更に押し付けられ髪が、後頭部が床に痛みを伴って沈む。
上から注がれる楽しげな笑み。
朗らかであるのに、一切のぬくみを感じさせないそれ。
息が、できない。
それは決して、仰向けに倒された自分の腹部に、
男が悠然と腰を下ろして笑っているせいだけではない。
得体の知れない何かに身体中の神経が犯され、痙攣する。
そう、死だ。
目の前にあるのは死だ。

この男は『死』なのだ。


「なぁ、お前は銃を撃つ瞬間一体何を思って引き金を引いてる?」


死は問う。
自分は何のために引き金を引くのかと。

自分が引き金を引く理由。
それは悪を挫くためだ。
自分の銃は悪を挫くためにある。
自分は法の執行者なのだ。
法を犯す悪に正義の名の下、制裁を、法を執行する者。
そう悪を挫くため、法の執行のために自分の銃はあるのだ。

自分の、自分の銃は正義のために。


「ならお前の正義はどこにある?」


───自分の正義?

正義は法。
法こそ正義。
ならば自分の正義は法。


「お前の法はどこにある?」


───自分の法?

法は規則。
《生徒会》の定めた戒律。
《執行委員》である自分が実現するべき正義。


「お前はその正義と法を、この銃でどうしたいんだ?」


───どう、したい?

どうしたい、とは。
自分は何をしたいのかということか。
ならば自分はこの銃で、法を執行し、悪を挫き、正義を実現するのだ。
正義を実現して、そして…


「そして?」


───そして、何になる?


「お前のその"引き金"は何のためにある?」


自分の引き金は。
この銃は、自分は一体何のために。





「───教えてやるよ、相手を殺すしか能の無い兵士は戦場で1番に死ぬ」





脳の裏で何かが白く弾けて、飛んだ。