青空色の日常


「皆守君、ポッキー食べる?」


それは昼休み、昼食もすっかりと済んだ後のことだった。


「あ?」
「だからポッキー。
 あ、もしかしポッキーの何たるかから説明が必要?」
「…お前、俺を何だと思ってやがんだ?」
「だって普段から随分と老け込んでるもんだから」
「いい度胸だ、そこになおれ」


老体かどうか試してくれる。
言って、のっそりと給水塔に預けていた背を起こして片足を上げてみせれば、
「やだ、冗談じゃなーい」と、
ポッキーを口にくわえたまま、は器用にもけらけらと笑った。
その後ろでは八千穂がやはりポッキーを片手にあははーと声を立てて笑っている。
この二人と居ると、自分はどうにも調子を崩されるばかりだ。
これが男であれば蹴りの一つや二つどでっ腹にでも喰らわしてやるのだが。
しかし不幸なことにも相手は二人とも女。
仕方無しにも小さく舌打ちし、パイプを軽く噛んだ。


「ポッキーは嫌い?」


差し出されたポッキーが眼前で左右に振れる。

「ああ、もしかして甘いもの自体ダメ?」と、
口にそれをくわえたままにも、やはり事も無さげに至って普通に喋る
まったくどうして不要な所で器用なものだと思う。
何をかしてその楽しげな表情を崩してやれないものかと考えて、ふとあることを思い付いた。


「…そうだな、貰おうか」
「どうぞー」


くわえていた、火を付ける前のアロマを口からのける。


「───…え?」


俺らしくもない。
頭の片隅でぼんやりとそんなことを思った。


「コッチのをな」


差し出された手首を引っ掴んで引き寄せた身体。

急激に詰まる、互いの鼻先までの距離。
至近距離、真正面に迫ったその整った顔立ち。
存分に見張られたその瞳。





「───…ごっそさん」





口にくわえられたそれに噛み付き、唇まで後2cmというところで折り取ってやった。





「…やだ、皆守君ってエロキャラだったの?」
「何だそりゃ」
「うわぁ、皆守君だいたーん」
「近付いちゃ駄目よ、明日香。食われるから」
「そういう事を言うとな、『食われる』というのが実際にどんなものか思い知らせるぞ」
「この場で?」
「御希望とあらばな」
「丁重にお断りさせて頂きます」


特に慌てふためくでも、かといって硬直するでもなく、
ましてや真っ赤に頬を染めたりなどもせず、再びポッキーに齧じり付いたに、
「もう1本くれ」とダルく腕を伸ばして言えば、
「どうぞ♥」と今度は、今まさに口にくわえたばかりのそれをそのまま堂々と勧められる。
…おいおい。
ひたりと思考ごと停止した俺を見て、はからからと楽しげに笑った。





「私のファーストキスをおびやかしたんだから、
 ちょっとぐらいの意趣返しは覚悟しておいてね?」





今夜の"夜遊び"はうとうとしてられない、そう思った。


初めて書いた九龍夢。
なもんで、3人ともいまいちキャラが掴めていないという…(笑)
八千穂と皆守と3人仲良しこよし、3ーCトリオの青春真っ盛りなやりとりが好物です。

image music 【 太陽のかけら 】 _ ORANGE PEKOE.