星たちの距離


「お前は狡い奴だよな…」
「…そう?」


努めて震えを抑え込んでそう呟けば、寂しげな苦笑が返って来た。
しんしんと降ち積もる白い雪のように静かなそれを肯定と捉えて、俯く。
今度は少しだけ困ったようにが笑ったのが気配で判った。


「───全て見透かしていて、そうして敢えて見逃しやがる」


何をしてるのだろうか、俺達は。
暴くわけでもない。
晒すこともない。
勿論、明かし合うことも。
互いに決定的な事柄を口上に乗せず、一つのベッドに二人腰掛け静寂を聞く。


「ごめんね」
「謝るぐらいなら責めろよ…」


きつく噛み閉めたパイプ。
金属の味が舌に染み、口の中に広がった。


「責められた方が楽?」
「………」
「気安い哀れみは侮辱と同じよ」
「…そうだったな」
「甲太郎は好きじゃないでしょ、そういうの」


そうだな。
そうだった。
全くその通りだ。


「───それに私は《宝探し屋》だから」


お前は《宝探し屋》で、俺は《生徒会副会長》で。

いつかは俺達の間に割り込んでくる別離。
それはおそらく俺がお前へと一方的に突き付ける拒絶。
叩き付ける永遠の別れ。
だから、どうか、
お前がそれを拒むのなら、その時は。
突き放したその距離をそのまま俺に突き返してくれ。


「"決めた"のは、私も同じ」


そして願わくは。
俺の命を奪う時は。
どうか、俺の中のお前だけは奪わないでくれ。

───ああ俺は、どこまでくだらない男なんだろう。


「それじゃあね、甲太郎」


お前は、もうすぐにでも"守るべき対象"ではなくなる。

ともすれば、もはや。
何を、どれほど願っても、互いに与えられるものは何も無く。
ならば。





「───"最後"のバディ、よろしくね」





そう、後は互いに"奪い"合うだけ。


ヒロインは全て判っていて、だからこそ遺跡へ。
視野の狭い甲太郎はそんなヒロインを視界に収められないまま、遺跡へ。

image music 【 星たちの距離 】 _ CHEMISTRY.