「驚かないんだな」
「そうね」


背を向けた俺を、アイツは普段と変わらない穏やかな声色と気配で肯定した。


「色々と調べは付いていたから」


だから、最後まで駄々を捏ねた八千穂を連れては来なかったのか。


「甲太郎は選んだのね」
「ああ…」


ここまで来て、ようやくそのことに思い至った己の決心の甘さに辟易とする。


「なら私はそれを受け入れるだけ」


ぞくり、と。
場の空気が音を立てて色を変わる。
一瞬で乾いた代物となった世界は冷たく、暗く、冴え渡って。

そこにあったのは静かな、けれど不敵な笑み。
鋭く、気高く。
全てを威圧し、圧倒する眼差し。
まるで別人のような、その女。





「───本気で、相手してあげる」





そして自分へと向けられた、躊躇いの無い真っ直ぐな殺意。


「もう甲太郎が胸を痛めることの無いように…」


両大腿のホルダーに収められていた2丁のハンドガンが、
遺跡の石床へとぞんざいに投げ出され、身を打ち乾いた悲鳴を上げる。
続いて暗視ゴーグルが、ワイヤーガンが、鞭が、爆薬が次々と放り出された。

その口元はやはり静かな笑みを浮かべたまま。


「私がこの手で解放してあげる」


そして瞬きした次の瞬間には既に。





「───さぁ、《奪い》合いましょう?」





処罰対象である《墓荒らし》が、そこにいた。


皆守とヒロインは東京事変の『遭遇』がモチーフです。
ジャジーな曲調もさることながら、
歌詞がものっそいガッツリと2人のイメージ。

image music 【 遭遇 】 _ 東京事変.