砂の盾


皆守甲太郎という男は、人に踏み込ませぬ術に長けている。

彼は無気力、無感動、無関心という"砂の盾"をもって、
一切の事象を受け止め、受け入れ、そして丸ごと飲み込んでは覆い隠してしまう。
それはまるで蟻地獄のようといえば決して穿った見方ではないだろう。
"砂の盾"の、その中央にぽっかりと開いた口で、
日常を味わうことなく噛み砕くこともなくただただ飲みほしていく。
そうして自分は何も感じないものとして、日々を消化している。

けれどその本性はといえば、世話焼きなお母さんのようで。
『困った奴』と言っては何度もその手を差し伸べてくれる。
放っておけないと幾度となく掬い上げてくれる。



ねぇ、甲太郎。
私がそれにどれだけ救われているか知っている?





たとえその裏に他意があったとしても、私はこんなにも幸せであることを。





その温かさは、優しさは嘘じゃないと。
思うのは決して私の現実逃避やら何やらではなく。
それは提出された仮定の分析と証明から導き出された確かな事実で。
傲慢かもしれないけれど。
私という存在が彼の何かをほんの少しでも明るい方向へと導けるのならば。
私はこの私という存在を1ミリたりとも惜しみはしないだろう。



ねぇ、甲太郎。
私は甲太郎のことが好きよ。





だから時機が来たらその"砂の盾"をこの手で暴き奪って、私が甲太郎を解放してあげる。


それが砂ならば、水で潤わせ砕いてあげる。