02.


「今日の次は明日。
 明日の次は明後日。
 そんな風に日々を繋いでいけたらいい」


ねぇ九ちゃん。
これを聞いた時あたしね、本当に目から鱗が落ちると思ったんだよ。


「今という一瞬一瞬を確実に明日の過去にしていく…、
 今日を明日の過去に、明日を明後日の過去に、明後日を四明後日の過去にって具合にな」


九ちゃんは《宝探し屋》だから。
あたしなんかじゃ想像もできないくらい広いこの世界のたくさんを知っていて。
あたしなんかじゃ信じることもできないような危険な目にいっぱい遭ってて。
だからこそ九ちゃんは、『平凡な日常』の大切さが良く判ってるんだろう。


「今日の出来事も歴史の一コマってね?」


九ちゃんの言葉はいつだって単純なのに奥が深い。
聞く度にあたしは、目の覚めるような思いをする。
確か月魅は九ちゃんの事を『爪を隠した哲学者』とか言ってたっけ。
そんな月魅をして『生き字引』と賞讃させる九ちゃんの言葉は、
極ありふれた言葉で、何気な過ぎてなかなか気付けないことを気付かせてくれる。
もしそれがちょっと難しい言葉があっても、ちゃんと判り易く噛み砕いて説明してくれるし、
それでも判らない時だって、頭の良くないあたしに根気良く丁寧に教えてくれるんだ。


「『今日の出来事も歴史の一コマ』かぁ…。
 そっかぁ、忘れないうちにメモしとかなくちゃッ」
「メモ?」
「うんッ。携帯にメモ!」


思い立ったら吉日。
スカートのポケットから携帯を取り出して、メモ機能を開く。
すると大きな掌がディスプレイをそっと覆った。
長く骨張った、細かい傷だらけの指。
九ちゃんの手だ。
何だろうと思って顔を挙げれば、隣にある九ちゃんの穏やかな笑顔。


「大丈夫だよ、やっちー」


学校でも、墓地でも。
いつだってあたしを安心させてくれるそれ。





「本当に覚えていなければならないことってのは永遠に覚えているもんだから」





やっちーはどうやって笑い方を覚えたかなんて覚えてないだろ?
でも忘れたりなんてしない。
違うか?

またしても目から鱗を落とすあたしに、九ちゃんはあたしの大好きな笑顔で笑った。