05.


「女は水で出来てるそうだ、一部の男も」
「そうね、『女の胎には海がある』って良く言うし」
「ああ、そういや言うな」
「実際、女の体内には海だけでなく月もあるけどね。
 海も女の胎も、魂が還り、また誕生する場所。
 あらゆる豊穣の生まれいづるところ。
 日本でも、昔から豊穣と魂の源たる異界の祖霊である水神が、
 人間界を訪れる際に獣の姿をとってそのまま水夫と共寝して婚姻を結ぶ話も多いの。
 ほら、遺跡の途中にあった山幸彦と豊玉姫の物語もそれを表してたでしょ?
 あれは天の男と地の娘との間に生まれた若者が、今度は水の娘と結ばれて、
 その間に生まれた子は天地水と世界の全ての力を持つ、
 つまり世界の支配者であるってことを表しているんだけど、
 豊穣と魂の源たる水の神と交わりを持つことで人間は、
 自然の加護を、もっといえば自然を支配し得る力を手に入れられると考えていた。
 これは日本神話の話だけど、他にも伝承、民話、俗話とたくさんあって、
 古来から人々はこうして水の力、豊穣の力を持つ神と縁を結ぶことが重要視していたのね」
「ぐー…」
「…この男は」
「ん? ああ、講義は終わったか教授?」
「終わったわよこの不良学生。
 もう、自分から話振っといて…。
 あーあ、これが大和ならしっかりと聞いてくれた上に、
 持論や私的見解でもって応えてまでくれるのに」
「………」
「今から大和を探して『女の胎と海』について語り合ってこようかな」
「待て」
「私に何か言うことは?」
「………俺が悪かった」
「よろしい」