08.
「脚の無い鳥がいるらしい。
脚の無い鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠り、
そして生涯でただ一度地面に降りる───それが最期の時」
「何だよ、急に」
「なぁ、甲太郎。
俺には脚があると思うか?」
「はァ?」
「今お前の目の前に居る俺に、脚はあるか?」
「………」
何故か誇り高く、高潔に。
しかし薄らと皮肉の気配を滲ませた、
器用なんだか不器用なんだか判らない笑みを浮かべて葉佩はそう聞き寄越してきた。
「お前は欲しいのか、脚が」
「どうだろうな。
っていうか、まず俺が鳥かどうかっていう前提すら未確定だし?」
「お前な」
「ああ、悪い悪い。
別にふざけてるわけじゃないんだ」
葉佩が真っ直ぐに頭上を見上げる。
つられて俺も真正面から空と向き合う。
蒼い空。
白い雲。
昨日と何一つ変わりない果てしない世界。
都合が良いのか悪いのか、一羽の鳥が視界を横切って行った。
「もし俺が脚の無い鳥だったら、その翼を噛み千切ってやるね」
そしてその声は、今度こそ芯から皮肉めいた代物で。
「脚が無いのに翼も無くしたときたらもはや地べたを這いずるしかない。
脚も翼も無く生涯地べたを這いずる鳥なんて、鳥にあるまじき…最高だろ?」
お前は俺が思っているほど奔放ではなく、俺が考えている以上に孤独なのだろうか。