09.


「ねぇ、甲太郎」
「何だ?」
「私のために今すぐ死んで?」
「…あ?」
「私にはね、ジェントリィな独身ナイスミドルの養父さんが居るの。
 文武両道を地でいくようなそんなまさに人類の至宝的天才な養父さんなんだけど、
 私がお嫁に行くのをとても楽しみにしてるって言うのよ。
 私のウェディングドレスを、私と旦那さんと自分との3人で、
 しかも旦那には引き攣り笑みなんか浮かばせながら選ぶのが夢なんだって」
「養父自慢なら他でやれ」
「だから私はこんな墓地で死ぬわけにはいかないの」
「………」
「でも私には甲太郎を殺すことなんてできない」
「………」
「だから甲太郎が死んで」
「…断る」
「じゃあ私と生きて」
「───…」
「死なないで。
 私のために、私と養父さんのために生きて」
「…悪魔みたいな野郎だ」
「野郎なんて失礼ね。
 私は女。養父さんは男だけど」
「知ってる」
「尚更失礼千万」
「今更だろ」
「知ってる」
「…俺と一緒に不幸になるか」
「甲太郎と一緒の不幸なら、私にとっては幸福だわ」





根が深い諦め癖の男の、その精一杯の告白が。
覚悟に転じることは現在過去未来永劫無いのだけれど。