11.
「鳥は飛ぶ前にもう死んでたんだ」
「また、鳥か」
「お。覚えてたのか?」
「『脚の無い鳥』なんて薄気味悪い事を言い出すような人間を、
俺はお前ぐらいしか知らないからな」
「へぇ、俺が言った事だから覚えててくれたわけか」
「……何だその含みのある物言いは」
「別にー?」
ただ親友だなって。
言って九龍は喉を鳴らしてくつくつと笑う。
その手元には先程ホームルームで担任から配られたプリントが一枚。
印刷された内容が何であったかは忘れた。
九龍は藁半紙のそれを長い指で器用に、また丁寧几帳面にも、
折ったり畳んだりして、所謂折り紙というヤツを楽しんでいた。
この間、八千穂と白岐に教えて貰ったのだという。
つい先程配られたプリントの内容はまるで覚えていないというのに、
九龍やら八千穂の言葉はしっかりと覚えていたりするのだから、
我ながら焼きの回った思考回路だと、ぼんやりとそんな事を思った。
「なぁ甲太郎」
「何だ」
「既に死んでいた鳥が飛び立てると思うか?」
「あ?」
生きてもいない鳥が飛べるわけがない。
思わず喉を突いて出た柄の悪い五十音トップバッターの一文字。
訝しさを包み隠さず、むしろ赤ら様になんて眉間へと皺を刻めば、
九龍は俺の反応に何処か満足げに笑う。
「そう、飛び立てるわけがないんだよ」
その笑顔に、俺の回答の有無なんて初から関係無かったのだろうことが知れた。
「全ては死んで地べたに伏した哀れな鳥を見つけてしまった"そいつ"の自慰の妄想なんだ」
言って九龍は藁半紙のプリントで折り上げた紙飛行機を、
空へ放つことなく、そのまま地面へと落とすよう真っ直ぐに手放した。