15.
「───何でお前が此処に居んだよ」
人気などあってはならない墓地。
墓名の無い墓石。
茶色く色褪せたラベンダー。
そしてそれらの前に立って静かに見下ろし佇む、見知り過ぎたような女。
「金魚を買いに来たの、怖くて何も思い出せない」
にっこりと笑って。
正面切ってはそんなふざけた事をのたまった。
「赤ずきんかお前は」
いや、赤ずきんは金魚なんて買いに出掛けない。
思わず脳内でセルフツッコミなんてかました自分に苛立ちを覚えたが、
どうにか素知らぬフリを決め込む。
『何故、此処に居る?』
再度問うべきか否か。
否。
幸運にも今日は供えの花は手持ってない。
『ふらりと通りがかった』。
少々苦しいが押し通せないこともないだろう。
ともすれば。
俺が今口にすべき言葉は咎めの台詞。
そうだ。
『吐くならもっとまともな嘘にしろ』。
それだ。
言おうとして軽く息を吸い込めば、それよりも先にが口を開いた。
「『吐くならもっとまともな嘘にしろ』」
「───!」
「Exactly.
まさにそういうことよ、甲太郎」
それは。
それはつまり。
「さてと、今日のお昼は何を食べようかな?」
─── 吐くならもっとまともな嘘にしなさい ───
俺の嘘は。
裏切りは既に明らかだと。
つまりはそういうことなのか。