「甲太郎、目真っ赤」
「…うるせェ」
「男を泣かせるのはイイ女の特権なんだって、昔養父さんが言ってたわ」
「…クソッ。
 ああそうだよ。お前はイイ女だ、そりゃもう最高の女だよ!」
「何でそんなヤケっぱち?」
「お前がイイ女だからだよ」
「しかも拗ねてる。
 でも本当に見事な泣きっぷりだった」
「まだ言うか…」
「まるで夏の夕立ち、ううん、熱帯雨林のスコールみたいだったもの」
「…そこまで言うか、オイ」
「だって嬉しくて」
「………」
「やっと甲太郎を捕まえられた」
「……馬鹿野郎が、人の気も知らねェで…」
「ふふ、ごめん。
 でもこうでもしないと、甲太郎の根深い諦め思考を遮断できないと思って」





「───どう、すっきりした?」





命懸けで俺を泣かしてみせたのか、お前。
思っても再度込み上げてきたそれに言葉は滲んで消えた。