「ん…」
「おや、目が覚めましたか?」
「じぇーど…?」
「朝起きて私以外に誰が隣に居るというんです?」
「んー…ジェイド…」
「おやおや…今朝はまた随分と寝惚けていますねぇ」


緩慢で、辿々しい動きでもってこちらへと腕を伸ばす。
この髪を掴もうとしたのだろう、その手は誤った目算のままにも宙を掻く。
2度、3度。
得たい温度を得られず、数秒の経過をもってようやっと脳裏に疑問符を生じたらしい。
「んー…?」。
空中でばたつかせるのをやめた指先がぽふりとベッドに落ちる。
重くて仕方が無いとばかりのその瞼と眠気眸はとてもあどけなく、
微睡みを抜け出せずにいる掠れたその声はとても幼い代物だった。


「ジェイドー…」
「はいはい」


再度伸ばされた腕に招かれるままに身を倒し、
その白い、けれど所々赤く鬱血した首筋へと顔を埋める。
「ん」。
至極満足したようにそう吐息を零しては、
この首に「ぎゅうっ」という擬態語がしっくりくる具合で腕を巻き付けて寄越した。
鼓膜を直にくすぐる、穏やかに寝息へと凪ぎいく呼吸。
どうやらこのまま再度夢の中へと戻っていく腹積りであるらしい。



「…や」
「この体勢は老体にはそれなりに苦しいのですがねぇ」


舌足らずにも、五十音の一文字であっさりと解放を拒んだ
仕方無しにもその背へと腕を回し、もう一方をベッドについてごと上半身を起こす。
そうしてそのままを揺すらぬようゆっくりと横に身を転がし、
柔らかな身体を抱いたままベッドに背を預け、仰向けになった。



「………」
「まぁ、昨晩は大分無理をさせましたからね。
 このぐらいは甘やかしてあげるとしましょうか」


返答は無い。
ただ穏やかに、そして緩やかに淡い寝息が繰り返されるのみ。
こんな一時は嫌いではなかった。
既に身支度を整え始めなければならない時刻であるというのに、
ベッドの上で2人、何をするでもなくただ身体を重ねて肌越しにお互いの心音を聴く。
あやすように、無防備に寝息を立てるの後ろ髪をゆったりと梳る。
甘く鼻に掛かった吐息を小さく零して身じろいだ
クセの無い長く黒い髪が華奢な肩から流れ落ちて心地良くこの首筋を撫でる。

ああやはり、こんな一時は嫌いではない。





「この分だと、またゼーゼマン参謀総長にせっつかれてしまいますね」





当分、身を固めるつもりはないのですが。
今はまだ、この"ままごと"を手放すのは惜しい。
そんな呟きを最後に、の呼吸と心音を子守唄にゆったりと意識を手放した。

だっこ、して。


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