「ねーねー、って彼氏とかいるの?」


そうして"女の子暇潰し"、もといコイバナが始まった。


「何、急に?」
「だってぇ、この中で彼氏居そうなのってだけなんだもーん」


ねぇねぇどうなのぉ?、と。
上目遣いにも実に愛らしく腕へと擦り寄って寄越すアニス。
ともすれば周囲から一斉に注がれるのは好奇の視線。
(一人だけ違う種類のがまじってるが)
やはりその手の話題に興味のあるお年頃というやつなのか、
「くっだらねぇ」と口では言いつつちらちらとこちらを振り返るルーク。
同じく、あまり興味の無い風を装いながらも、
意識と耳はしっかりとこちらへと向いてしまっているティア。
そう、この2人は時折こうして似通った仕草を見せる。
「似た者同士」などと口にすれば不興をかうことうけあいだが、
やはり通じる部分があるからこそ互いに気にかかるのだろう。
そんな事を考えがら先を行く2人の背を微笑ましく眺めていれば、
アニスがぷうっと頬を膨らまし、勿体振るなとばかりに再度せっついて寄越した。
(しかもトクナガまで腕に引っ付いてきた。可愛いわねコンチクショウ)


「いるわよ」
「はうぁッ! マジで!? だれだれだれどんな人ー!?」
「はいはい、教えてあげるからとりあえず落ち着いて」
「ふみゅー」


肯定すれば、目をキラキラさせてはしゃぐアニス。
落ち着けるようその頭を撫でてやればしんがりのガイが、「まるで姉妹だな」と笑う。
「アニスみたいな可愛い妹なら大歓迎♥」。
「アニスちゃんもみたいなお姉ちゃんなら大歓迎♥」。
ひしっと、アニスとハートマークを散らして抱き合う。
さもすれば「それで、の彼氏とはどんな方ですの?」と、
いつの間にやら興味津々とばかりのナタリアにまでせっつかれて。
アニスの隣を歩いていたイオン様がくすくすと涼やかに笑った。
(やっぱりイオン様には判っちゃうわよねぇ)


「しょうがないわねぇ…、背は高いわよ」
「どれぐらい?」
「ルークやガイよりも大分高いわね」
「悪かったな、背が低くて!」
「誰もそんな事言ってないじゃないの。
 相変わらず自意識過剰なおぼっちゃまねぇ」
「何だと!?」
「まぁまぁ、ルーク。
 で? どんな奴なんだ、その彼氏は?」
「うーん。
 国王と姻戚関係にあるルークとに比べるとアレだけど、一応いいとこのおぼっちゃんよ」
「はうーん♥ いいなぁいいなぁ、玉の輿〜!」
「どうかしらね。
 ただ、どうにも"ウッカリサド気質"なのがねぇ」
「「「「「「………『ウッカリサド気質』?」」」」」」
「そう幼少時の名残なのかしら。
 普段はそうでもないんだけど、時々ドSっぽいコトをして寄越すのよ。
 しかも本人完全無意識に。
 この間なんか人の耳朶引きちぎっといて、
 まったりと『ああすみません。ついうっかり』だもの。
 本当タチが悪いわよね。
 あ、言っとくけど私被虐趣向とか無いから。むしろソフトSだから」
「「「「「「………………。」」」」」」


三者三様ならぬ、六者六様。(やだ、面白い)
皆、一生懸命『ウッカリサド気質』の意味を理解しようと、
脳内の処理に励んでいるようだった。
(一部の王族はサドの定義から使用人に問い質しているようだけれど)
さて、誰が1番先にプチ混乱を打開して寄越すか。
アニスとの淡い予想の外にも、
沈黙開始から26秒後に口を開いたのは消化不良といった具合のティアだった。


は…その、一体その人のどこが好きで一緒に居るの…?」
「顔」
「……は?」
「顔がねー、腹立たしいぐらいに好みなの。
 あと憎たらしい程に眼鏡が似合ってるし。私、眼鏡フェチだから」
「………眼鏡ぇ?」
「眼鏡、ですか?」
「…眼鏡、なのか?」
「眼鏡って…」
「眼鏡っていや…」


『眼鏡』。
何てことはなく最大のヒントを投下すれば、5人の視線が一斉に自分から離れていく。
離れていくそれらの動きに擬態語を付けるとしたら、
『そろりそろり』というのが1番しっくりとくるだろう。
『こわごわ』でもいいかもしれない。
半信半疑に揺らぎつつも、確実に一点に向かって集中しようとするそれらを、
平然と受けとめたのは他に誰がいようか。(否、いまい)





「やー、そんな一斉に見詰められるとさすがに照れますね」





相変わらず言動と表情の一致しない台詞を吐いてジェイドはにこりと笑った。





「「「「「た、大佐あァ───!!?」」」」」
「いやですねぇ、そんな大声を上げて」


この利害のみが添い合った他人同士の集まりの心が今初めて見事に一致した。
(それもどうなの)
ぎょっと目を剥いてるルークにぽかんと口を開け放ったティア。
「マジ!?」と被った猫がずり落ちてるアニスに「まぁ」と両頬を押さえるナタリア。
さしものガイも「こりゃ驚いたな…」と手放しに驚いてみせている。


「うっわ、何かもうめっちゃ気になるんですけど大佐とのなれそめ〜」
「なれそめねぇ」
「なれそめですか」
「あってないようなもんというか、悪い狼に誑(たぶら)かされて…」
「幼気な子羊の皮を被った女豹に勾引(かどわか)されまして」
「なんだそりゃ…」
「ふふ」
「ふみゅ? イオン様?」
「ああ、すみません。つい」
「『つい』?」


ええつい、と。
言ってやはりゆったりと声を立てて笑うイオン様。
不思議そうに首を傾げるのはなにも隣を歩くアニスだけではなく。
先頭を歩くルークとティアも。
二人の後ろを歩くガイとナタリアも。
そして殿を預かる自分とジェイドも、
イオン様がまるで微笑ましいものでも見るかのように、
自分達へと穏やかな眼差しを注ぐ理由が判らず。





「───お二人とも、照れ隠しはあまり得意ではないのですね」





やはりイオン様は油断ならないと、ジェイドと二人認識を新たにした。

どこまで 
確かめて欲しい?


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