「お帰りなさいませ御主人様♥」


確かに自分の執務室であるはずの扉を押し開いた其処に居たのは、
過剰な装飾の施された所謂世間一般で言うところのメイド服に身を包んだ右腕だった。


「………。」
「おぉ、あの死霊使いジェイドがドアノブを掴んだまま固まってるぞ」
「作戦成功ですね、陛下♥」
「おう、『ジェイドの胆をイカの腑抜き☆作戦』成功だな♥」
「何ですかその無き等しいネーミングセンスは。
 今すぐイカに手をついて謝りなさい。
 というかまた国家予算で何をしているんですかあなた達は…」
「「コスプレ」」
「………」


きゃっきゃとはしゃぐ2人は両掌を合わせると、
いけしゃあしゃあと声をハモらせそう断言した。
一体何がどうしてたかだか十数分部屋を開けただけで、
こんな理解こそできても如何ともし難い光景を拝まなければならなくなったのか。
本来なら頭を抱えて転げ回りたいところを持ち前の理性でぐっと堪え込んで、
思わず皺を寄せてしまった眉間を揉みほぐしつつ自らの敗因を探ってみたが、
結局徒労に終わるであろうことを速やかに悟ってジェイドは無駄な思索を早々にも投棄した。


「キムラスカのメイド服も可愛いですけど、
 この陛下デザインなゴスロリメイドの方が断然可愛いですね。
 機能性は皆無ですけど」
「機能性なんざ二の次なんだよ、こういうのは」
「観賞用ですか?」
「観賞用ねぇ…観賞用、イイなそれ。
 どうだ? この際オレ専属の観賞用メイドになるってのは?」
「やっだ、陛下ったらセクハラー♥」


の顎を引き寄せ、横柄に身を任せるそのソファへと引き込もうとする皇帝。
細い腰が折れて、パニエたっぷりな短過ぎる裾が上がりもすれば、
見えそうで、しかしボリュームのおかげで上手い具合に見えないそのスカートの中身。
思わず「いい仕事をする…」などと内心舌打ちしてしまった己を叱咤するのは、
他に誰が居ようか死霊使いである。
しまいには彼の人の趣味でしかないガーターベルトに当の皇帝の指が甘く掛かれば、
さしもの死霊使いとて脳裏で何がか音を立てて弾け飛びもする。


「失礼」
「───へわっ!?」


頬の筋肉だけ完成させた笑みを張り付け背後から接近してジェイドは、
常から見せないような豪腕ぶりを披露し、
をまるで小動物にするかのように後ろから抱え上げた。
更には軽々と肩の上へと担いでみせる。
無論、スカートの中身が皇帝に覗かれないよう、
また自身のセクハラも兼ねて裾はしっかりとガード済みである。
肩の上で実に色気の無い悲鳴と非難の声を上げるを、
からすれば不穏としか言い様のない爽やかな笑顔で黙殺すると、
「私室へ戻られる際は施錠をお願いします」と一言、
一国の主へと執務室の鍵を投げ渡してジェイドは早々にも仮眠室の奥へ消えた。


「アレは悪ノリなのかマジノリなのか……まぁ両方か」


要するに「鍵掛けてさっさと帰れ」と遠回しにも告げられた当の皇帝は、
まぁ毎度の事と、愛しい家畜達を愛でんと薄情にもあっさり執務室を後にした。










「ジェ、ジェイドさーん…」


一方、ジェイド・カーティス大佐執務室付きの仮眠室では、
お昼過ぎというその時間帯にはよろしくない雰囲気に満ち満ちていた。


「何ですか?」
「いや『何ですか?』じゃなくって。
 むしろ『何ですか?』はこっちの台詞だから。
 何ですかこの手は。
 このスカートをたくし上げてあまつさえガーターベルトに掛かってる手は」


担ぎ上げられた時とはまるで真逆な、
実に紳士的な動作でもって降ろされたそこは、
糊の利いた真っ白なシーツが気持ち良い大佐専用の仮眠用ベッド。
麗らかな午後の陽射しと共にゆったりと笑顔で覆い被さられもすれば、
これから降り掛かる己の不運など考えずとも見えてしまうというものである。
服の構造を解さんと「ふむ」と小さく唸って見下ろすジェイド。
まずい。
この男、脱がさずに事を成す気だ。
の背筋に冷たい汗が伝う。
「や、やだー。ジェイドったらそっちの趣味があったの?」
目を泳がし口の端を引き攣らせつつも果敢に時間稼ぎを図ろうと試みる。
「いいえー、私はもっと直球でやらしいのが好みです♥」。
パチンと小気味良い音を立てて外されたガーターベルトに、
大尉の懸命な努力は露と払われて終わった。


「折角お二人が私のために誂えて下さったとびっきりのシチュエーションです。
 可愛いらしいメイドさんのとびきりの『御奉仕』、期待してますよ」


声と顔ばかりは穏やかなそれ。





「───"コス"チューム・"プレ"イ、存分に堪能させて頂きますよ」





けれど一瞬後にはまるで別物にも甘く凶暴に低められた声に、
呆気無く抵抗する気力を封じられ、あまつさえ物の見事に煽られて、
宣言通りにも『存分に堪能』されてしまったメイド大尉に、
それからしばらく口を利いて貰えなかったりで素でしょぼくれる陛下の姿が見られたとか。
image music:【ガムシャラバタフライ】 _ 山崎まさよし .

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