「ジェイド、髪」
「ああ、すみません」


時々この2人は何気なく、本当に何気なく、
まるで年の熟れた夫婦のような真似を見せる。


「ふふーん、三つ編みにしてやる」
「どうぞお好きなように」
「…張り合いないわね。
 それじゃあぴっちりとツインテールに…」
「よしなさい」
「『お好きなように』していいんじゃなかったの?」


本日の料理当番としてナイフを握り菜を切り分けていた大佐。
腕を伝って昇るその振動に、肩から滑り落ちた大佐のクセの無い髪が、
さらさらと白く端正な横顔を無用に撫で付けていた。
見兼ねたがひょっこりと大佐の背後に立ち、実に慣れた手付きで結わいていく。
もう半年近く旅を共にしてきた中で何度も目にした光景。
今回は結局は無難なところに落ち着いたらしい。
明るい大地色の髪を後ろでゆるく一つ結びにしては、
「私の分のサラダにトマトは入れないでね♥」と両手を組んでねだる。
「軍人の身で、偏食は関心しませんね」。
容赦無く角切りにしたトマトをレタスの中に放り込んで大佐は、
ルークに向けるような笑顔でもってしっかりと赤を緑に和え込んだ。


「なーんかそうしてると夫婦みた〜い」


アニスが背後から脈絡無く告げれば、揃って声の主を振り向いた2人。
きょとりと瞬きを忘れ、次いでひたりとなんて顔を見合わせ停止する。
そんな2人の反応に今まで一連のそれらが無意識の産物なのだと知らしめられ、
ああこの2人もやはり人の子なのだという事実に今更ながら改めて思い当たった。


「やだ、夫婦だってジェイド」
「ふむ、夫婦とのことですが」
「反応薄〜」
「そういう初々しいのはアッシュとナタリアに求めてちょうだい」
「おや、初々しいのがご要望とあらば…」
「「丁重に辞退させて頂きます」」
「そんな遠慮なさらず」
「初々しく恥じらうジェイドなんて想像しただけで悪寒が…」
「もはや怪談モノだよね…」
「言いたい放題ですねぇ」


そんなささやかな漫才を織り交ぜつつも手の方はしっかりと料理を続けている大佐に、
(相変わらず器用ね…)なんて内心こっそりと呟きもすれば、
思い起こすのは、いつの事であったか『他人に関しては秀逸なまでに器用なのに、
自分に関してはすこぶる不器用なのよねぇ、ジェイドって』と、
独り言にも溜め息まじりに零したの言葉。
確かに大佐が自身に関して不器用なのは確かなのだろうと思う。
けれど大佐が不器用なのは自身以外にもう2つあるように思う。
一つはピオニー陛下。
そしてもう一つは
2人を弔ってしまったらこの大佐は一体どうなるのだろうか。
一瞬好奇心にささやかな火が灯ったが、
すぐにそれが悪趣味な妄想でしかないことに気付いて即刻打ち消した。


って大佐の髪結わくの好きだよね」
「は?」
「だって毎度すっごく嬉しそうにやってるもーん」
「おや、そうなのですか?」
「…さぁ?」
「大佐も大佐でに髪結わいて貰うの実は好きですよね〜」
「ふむ、そう見えますか?」
「ふっふっふ、アニスちゃんはお見通しですよぅ。
 ズバリ! 大佐ってに髪結わいて貰いたいから、
 普段から自分で髪を結わかないでそのままにしてるんでしょう!」
「へー、そうなの?」
「さあどうでしょう?」
「だってこの間、おんなじ状況下でティアが『髪しばりましょうか?』って申し出たら、
 『ああ、お気遣いありがとうございます。でもお気持ちだけで結構ですよ』なんて、
 笑顔で断っておいて、そのくせ、
 ガイと買い出しから帰って来たにはちゃっかり結わいて貰ってたもん」
「まぁの場合、『しましょうか?』と申し出るティアやナタリアと違い、
 『ジェイド、髪』と私の承諾如何を問わずに結い出しますからねぇ」
「まったまたぁ。
 『髪邪魔じゃねェ? 結んでやるよ!』って勝手に髪結び出そうとしたルークを、
 『結構です』ってニーッコリ、バッサリ拒否ったくせにぃ」
「男に髪を結われて喜ぶ男がどこにいます?」
「アニスちゃん的けっつろーん☆
 大佐はに結って欲しくって普段から自分の髪型を放ったらかしにしている!」
「いやーん、私ったら愛されてる♥」
「今更な気もしますがねぇ」
「はは、そうしてると3人はまるで親子だな」
「ほえ?」





背後で、共に一連のやりとりを見守っていたガイが声を立てて笑った。
ちょっぴり2人が羨ましいティア

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