「勿論モースが諸悪の根源であることには違いないんだけど、
 『あの馬鹿親二人のせいでアニスは』…って思ってしまうのはきっと、
 私が両親っていうものが本来的にどんなものであるのかを、
 理解していないからなのよね…」
「おや、ご両親は…」
「まだ他界はしてないはず。
 たぶん今もどっかで壮健にやってるんじゃない?」
「まるで他人事ですね」
「残念なことに、まさに他人事なのよ」
「ほう」
「血こそ繋がっていたけれど…私にとって両親は他人も同然だったから」
「要するに家族仲が悪かったと」
「随分と平たくまとめてくれるわね…。
 仲が悪かったというか互いに無関心だったからそれ以前の問題というか」
「まあ私も余所のことは言えませんが。
 お互いに一味違う家庭環境持ちだったというわけですか」
「そうね」
「…やはり蓋を開けてみなければ中身は判らないものですね」
「は?」
「いえ、貴女はあまり自身のことを話してくれませんから」
「そう?
 ……ううん、そうね…私は…」
「まぁ、私も自ら進んで自身のことを話すことはありませんからおあいこではありますが」
「…ありがとう」
「どういたしまして」


そっと、繋ぎ取った手。
くっと、握り取られた手。
それは私にのみ許された距離感であると知っているから、
傍らにあるその肩へと頬を寄せ、軍服越しに伝わる微かで愛しいぬくもりに身を任す。


「だからって、別に父性を求めてジェイドみたいな中年といるわけじゃないんだからね」
「当然です。私は貴女の父親になるつもりなど毛頭ありません」
「今度機会があったら聞かせてよ、ジェイドの両親のこと」
「あまり楽しい話ではないかもしれませんよ?」
「お互い様なんでしょ?」
「そうでした」


そっと、絡め取った指先。
くっと、包み取られた指先。





「アニス、微笑ってくれるといいな」
「そうですね」





両親の腰にしがみつき、わんわんと脇目も振らず泣きじゃくるアニスの背を眺めながら。
今はグランコクマに居るたった一人の家族を、養父を久方ぶりに恋しんだ。

メールフォーム

| |