「…イオン…さ、ま……」


どうか泣かないで、アニス。
今僕はとても満ち足りているから。
だって僕には君が居た。
シンクにも、他のイオンにも、
本物のイオンにも居なかった君が、僕には居た。
僕は"君のイオン"になれた。
僕はそれをこの上無く幸せに思うんです。


「もう…僕を監視しなくていいんですよ、アニス…」


代わりは嫌だったのだと、気付いたのはいつだったろう。
そう、シンクが地核へと自ら身を投じた時だ。
シンクは言った。
『ゴミなんだよ…代用品にすらならないレプリカなんて』。
『必要とされてるレプリカのご託は聞きたくないね』。
自分と彼は同じだと思っていた。
思い込んでいた。
だって僕には、僕らには代わりがいるから。
死んでも何の問題も無い存在なのだと思っていたから。
けれど違った。
彼は、彼の言うところの『代用品にすらならないレプリカ』で、
僕は、彼の言うところに沿えば『代用品にはなるレプリカ』で。
自分と彼の違いを認識した瞬間、忘れかけていたことを思い出した。
否、それを忘れようとしてしまっていた自分に気付いた。
僕は決して『イオン』ではないこと。
僕は『イオン』の代わりでしかないこと。
そして僕にはいくらでも代わりがいることを。
だから僕は感情の一部を凍り付かせることで"自身"を保ったのだということを。
だって怒りは空しかったから。
嘆きは愚かしかったから。
僕はそうして世界を諦めた。
"自身"を諦めた。
諦めた、はずだった。
けれど君の一言が蓋をしたはずの世界に光を注いだ。


『だって、私にとってイオン様はあなた一人ですから』


僕はイオンの代わりだけれど、その僕の代わりは誰もいなかったことを知った。

何もかもに気付くまでに随分と時間を要してしまったけれど。
この気持ちに気付くことができたのだから無駄ではなかったと心の底から思える。


「ごめんなさい、イオン様…っ、私…わた、し…ッ」


ねぇ、アニス。
君と居て僕はたくさんの感情を覚えたんです。
嬉しいという気持ち。
悲しいという気持ち。
そして愛おしむという想いの形。
だから、決めた。
君のために僕ができる限りのことをしようと。
そして笑おうと。
閉ざした感情を全て開け放って。
君のために。
僕自身のために。
君と、君の愛する人々が生きるこの世界のために。


「泣かないで、アニス…」


イオン本人でも、イオンの代わりでもなく。
アニス、君にとってのたった一人のイオンとして僕は。





「ありがとう…僕の一番、大切な…───」





さあ、もう笑うよ。

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