「スキ、キライ、スキ、キライ…」
花びらをぷちりぷちりと一枚ずつもぎ取る。
額と茎だけになるまで、もぎ取っていく。
俗に言う花占い。
なんて残酷な占いだろうと、こうして実際にやってみて思う。
1番美しい時期の花を手折って、その花の花弁をじわじわとむしって、
最後には額と茎だけにしてしまうのだから残酷以外の何物でもないだろう。
こんなものに乙女を感じろというのはどだい無理な話なんじゃないかと思う。
少なくとも私は無理だ。
ということは私に乙女は無理ということか。
上等。
元よりキャラじゃない。
路線が違う。
乙女なんて経由せず、イイ女になるから問題無し。
ぼんやりとそんなことを考えながらも、指は次々と花びらを額からもぎ取っていた。
「スキ」
ぷちり。
「キライ」
ぷちり。
「スキ、キライ、スキ…───」
ぷちり、ぷちり、ぷちり。
「………あらら」
桃色の花びらは、もう。
「───何してんだ?」
声を辿って、見上げる。
そこには予想した通りの人物。
青い空を背負った同僚。
「凌統」
今まさにこの花が、不幸にも花弁をむしられる原因となった男。
「見て判らない?」
「花虐待」
「…? こっちってもしかして花占いなんて風習は無いの?」
「無いね。…いや、俺の知る限りでだけどな」
「へぇ」
無いのか。
そういわれればそうかもしれない。
こっちの人々は花を大切にする。
確かに生花を簪にしたりはするけれど、無為に手折ったり千切ったりはしない。
どんな花も人々に愛でられるために育てられる。
それこそ人間と花の精が愛し合う逸話なんて珍しくもないのだから。
「それじゃあさぞや奇異に…というか病的な光景に映ったことでしょうよ」
「ああ。日頃の鬱憤が溜まりに溜まってイカレっちまったのかと思ったぜ」
「そう思うなら、もう少し甘寧と仲良くやってくれない?」
「嫌だね」
「私の胃に穴が空くのと呂蒙の髪が円形に抜け落ちるのと、どっちが先かしら…」
そう考えると私は、今一人の花仙を殺してしまったのか。
やめよう。
考えるだけ不毛だ。
「まぁいいけど。
…花占いっていうのはね、こうして『スキ、キライ』って交互に唱えながら、
花弁を一枚一枚もぎ取って意中の相手が自分をどう思ってるかを占うものなの」
「へぇ。花にとっちゃ災難としか言い様が無い占いだな」
「まったくね。私もこの花が不憫でしょうがないもの」
言って手元の花に視線を落とす。
1枚だけ花弁を残されたその姿はこれ以上無いぐらいに滑稽だった。
「…まぁ占いなんて所詮は、己の行動に対する事後の動機付けなんだしね」
茎と額とそして花弁1枚のそれに一つ口付け、彼へと差し出す。
「───凌統って、私のこと好きなんだって」
スキ、キライ、スキ、…───スキ。
スキ・キライ・
スキ、…スキ。