「───馬鹿じゃん、お前?」


馬鹿デッカイ犬を拾って来た数年来の友人(友人と思ってるのは俺だけかもしれないが)は、
死力でもって果てしなく嫉妬の気配を遠くへと追いやった俺珠玉の罵倒にも眉一つ動かさず、
実に素っ気も無く「そうね」とだけ答えた。
一秒の間も無く。
何の躊躇いも無く。
まるで俺の非難など有って無いような様子で。


「さっさと警察なり病院なりに突き出せよ」
「私もそれが最善策だと思うわ」
「言ってることとやってることが矛盾してんぞ。
 何、林檎3つもカゴに入れてんだよ。すりおろしてやる気満々じゃねぇか」
「私はそれが『最善だと思ってる』と言っただけであって、
 『いつでも最善とされることをしようと思ってる』なんて言ってないわよ。
 林檎は私も食べるの。ヨーグルトに入れて」


ムカっ腹が立つ。
俺は数年来も一緒に居る(俺が一方的に寄って行ってるだけかもしれないが)というのに、
一度だって彼女の部屋に足を踏み入れたことはない。
踏み入れたことがないどころか、拝んだこともない。
(ドアの隙間からもさえもない)(ドアの前に立ったことすらない)
だというのに。
身も知らぬどこぞのガキは彼女の部屋に上がり込んだというか転がり込んだあげくに、
今現在手厚く看病までして貰っているのだという。
何だ。
何なんだ。
俺の数年は一体何だったんだ?
俺の数年はそのガキの数分と同等だとでもいうのか?
冗談じゃない。


「面倒なら俺が捨てて来てやるよ。ポイッと」
「不法投棄は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金よ」
「…何なのお前、まさかそいつの面倒看る気か?」
「『ちゃんと面倒看るつもりがないなら最初から拾うなよ』だって。
 あの"犬"は、あんたと違って嫌みの一つもまともに言えるみたいだから」





───冗談じゃない。

数年分の俺の言葉は何一つとして、
彼女にとって嫌みの一つにもなり得ていなかったというのか。


嫌みの一つも 
言えるらしい。