「ねむれないの」


夜更けに小さく鳴った扉を押しあければ、
そこには自分の上半身程もある枕を抱えた少女が居た。


「リナリー」
「ねむれないの」


とてとて、と。
ぽふ、と。
扉を開けるなり、枕を抱いたままこちらへと寄り掛かって来たリナリーを抱きとめる。
眠れないの、と。
再度呟く小さな温かい身体。
その頭をよしよしと撫でてやればリナリーは、
一旦ほっとしたように肩の力を抜き、それからぎゅっとの腰へとしがみついた。


「いっしょにねていい?」
「いいわよ」
「やったぁ」


言うなり、にぱぁと愛らしい顔を綻ばせる。
本当に愛らしい少女だ。
彼が溺愛してやまない理由も判る。
どうしたって緩まざるを得ない口元を綻ばせては、後ろ手にドアを閉めた。
ぱたぱたとベッドに駆け寄って行ったリナリーは、枕を抱いたままよじっとベットに登る。
それを待ってから、も反対側に回ってベットへと入り、
そっとその小さな身体へと布団を掛けてやった。


「あのね」
「なぁに?」
「わたしね、といっしょにねるの、すき」
「ふふ、私もリナリーと一緒に寝るのが好きよ」
「えへへ…でもね、おにいちゃんといっしょにねるのもすきなの」
「リナリーはお兄ちゃんが大好きだものね?」
「うん! だからね」
「『だから』?」
「こんどはおにいちゃんもいっしょにねようね?」
「───…」


きょとんと目を見張って沈黙したの反応をどう捉えたのか。
リナリーは表情一変、眉尻を下げると不安げな色をその黒い瞳に浮かべた。


「だめ…?」
「うーん、ダメってことはないんだけど…」
「…いや?」
「まさか。
 ただ、私のもコムイのもセミダブルだし広さ的にキツイというか、
 コムイの寝相の悪さが最大の難題というか…」





翌日、から件の経緯を聞いたコムイが、
室長職権乱用にも即日キングサイズを自室に搬入させたりした事実は、
今や黒の教団内において『コムイ室長・シスコン伝説』の一つとして語り継がれている。


眠れぬ夜は 
傍に居て。



台詞で創作100のお題【15】眠れぬ夜は傍に居て。
コムイ兄さんほどじゃないけど、結局はリナリー溺愛なヒロイン。

image music:【流星群】_ 鬼束ちひろ.