次第に私の肺は、MSLの空気に痛みを覚えるようになっていった。

それは末路だった。
『何となく』の成れの果てだった。
1時間目から6時間目まで、必ず【魔法律】の字のつく授業。
時折、突然理由も無く息切れを覚えるようになった。
以前よりも、教科書のページを戻って捲ることが多くなった。
教師からくだされる赤いラインは○より×が増えていった。
エンチューが、ムヒョが、ヨイチが。
3人の背中が次第に小さく遠退いていく。
待って。
言えるわけもない。
勉強も気力も笑みも、必死に繕い続ける毎日。





「ばーか」





そんな私の呼吸不全に、逸早く気付いたのはヨイチだった。





「お前、いつまで俺らを待たせる気だよ」


いつから其処に居たのか。
本棚の陰から姿を現したヨイチは、
分厚い魔法律書につっぷして嗚咽を噛み殺す私を無理に起こすことはせず、
盛大な溜め息を一つ、私達の中で1番大きなその手で頭をくしゃりと撫でた。


「俺らはな、お前が手を伸ばして掴んでくれんのずっと待ってんだよ」


(憐れみなんていらない───!!)


憐れみなんていらないそんなものはいらない
そんなもの寄越さないでそんなものを寄越されるぐらいならいっそ





「放っといてよ…ッ!!」





───憐まれるぐらいなら嫌われた方がマシだ





気付けばいつの間にか、そんなことを思うようになっていた。
頭の悪い、みっともない、情けない自分を遠目にも見掛けて、
そのまま目を逸らして見捨ててくれればいいと思った。
そうしていつの間にか傍から居なくなってくれればいいと願ってた。
だってそうすれば、もうこんな惨めな思いをせずに済む。
劣等感の塊でいることもなくなる。
どうせ遅かれ早かれ置いていかれるのだ。
なら早い内がいい、今がいい。
私から別れを告げる勇気は無いから。
だからどうか、何も言わずにさっさと置いて行って。


「はァ? 何言ってんの、お前…」
「放っといてって言ってるの! さっさとどっか行ってよ!!」
「お、お前な…」


そんな風に手を差し伸べたりしないで。
余計に惨めになるだけだから。
嫌いだなんて言えないから。
思うのに。
なのに。





「だーっ! あんまり意地になってっと、問答無用でおぶってくからな!」





ねぇ、どうしてこんな頭が悪くてみっともなくて情けない私を嫌ってくれないの。





「───…ッ、私、重いもん!!」
「へっ、問題無ぇよ」
「問題あるよ!」
「無いね。なんたって俺とムヒョとエンチューと、男が3人も居るんだからな」
「……ッ」
「何だ? まだ何かあるのか? あァ?」
「…ふ、ふぇ…っ」
「おー、よしよし」


これは後から聞いた話だけれど。
この時、一つ本棚の向こうにはムヒョとエンチューが隠れていて、
ヨイチにしがみついてわんわんと大泣きする私の、
不細工な泣き声を最後まできっちりと聞いていてくれていたのだという。


「…私、魔法律家になる」
「おう」
「魔法律家になって、ヨイチやムヒョやエンチューと一緒にを仕事するの」
「ん」
「3人と、これからも一緒に居たいから…」
「ま、焦んなよ」
「うん」
「よし」





ようやく久方ぶりに何も考えずに笑えた。


ねぇ、
どうしたら 
嫌ってくれる?



MLS時代夢3。
ヒロインがピーピー泣いてみせるのはヨイチの前だけ。
それがまたムヒョは気に入らなかったりしてヨイチは八つ当たりされるという(笑)