「そうね…ちょっと其処に座ってみてくれる?」


そう宣ったのはこの部屋の主、姫さんだった。
意図が掴めぬままにも細い人さし指が指し示す一点、畳の上へとどっかり腰を降ろす。
胡座を掻く。
それから首を傾げて見せた。
勿論、頭上には疑問符をしっかりと浮かべ添えて。
それは「どういうコト?」と言外にもその意図を訊ねたつもりだったのだが。
結果、あっさりと無視される。
そうして俺に置いてけぼりを食わせた当の姫さんは、
実に満足そうに綺麗な笑みを浮かべて"其処"に座った。
何処にか。
此処にだ。
この膝の上にだ。
もう少し詳しく叙述すると、自分が掻いた胡座の中に尻を落とし、
自分とは垂直に交差するような具合で横向きに座った。
それは俺が姫さんを横抱きにして座り込んだような形と言えば1番了解し易いかもしれない。
あれ、椅子だったか俺?


「…姫さん、一体俺のこと何だと思ってんの?」
「忍」
「それはちょっと抽象的っていうか…」
「男」
「それはかなり体系的というか…」
「佐助」
「まんまかよっ」
「じゃあ、最近私のモノになった男」
「………」
「佐助って名前で忍びやってる私の男が黙りこくったわね」
「あのね、姫さん」
「何?」
「頼むからそうやって俺をちょこちょこと誘惑すんのやめてくんない?」
「ふふ、どうしようかな?」
「俺が保たないっての」
「理性が?」
「そ、なけなしの理性が」
「忍のくせに?」


甘やかに首へと絡められた白く細い腕。
ぴたりと額が合わせられる。
鼻先がしっかりと触れ合って、くすくすと笑う淡い吐息が直に肌を撫でた。
煽られる。
自覚する。
ああどうか馬乗りになんて乗っかってくれんなよ、なんて。
頭を抱え込みたいの必死に堪えて、
おそらく悔しげになんて顰まっているのだろう顔もそのままに黒曜の瞳を見つめ返す。

すると。





「───じゃあ、後どれだけ誘惑すればその理性を引き千切れる?」





そんなもの今ので綺麗さっぱり千切れて飛んだよ。

言って、そのまま姫さんを道連れにして後ろへと倒れ込めば、
されるがままにも馬乗りにさせられた姫さんは、
「忍の理性も存外大したこと無いのね」なんてやはり楽しげに笑った。


取り戻せない 
ぐらい奪って。



三国無双・戦国BASARAヒロインは最強の誘い受けです(笑)