「…っ」
?」
「ああ、大丈夫。平気」
「…左肩の傷が痛むの?」
「ここのところ長雨が続いてるからね。
 まぁまだ古傷って格好付けられるほど乾いてもいないんだけど」
…」
「あはは。本当に大丈夫だから、朔」
「そう…がそう言うのなら私はもう何も言わないけれど」
「ありがと。
 …でもこの分だと、このまま望美達のトコ行っても心配掛けそうようね」
「そうね…」
「うーん、しばらく部屋で休んでから行くわ。
 今日は中尊寺に行くんだったわよね。痛みが抜けたらすぐ追うから」
「判ったわ。望美たちにはそう伝えておくわ」
「ありがとね、朔」
「ううん、いいのよ。それじゃあ」


朔と別れ、来た廊下を辿り与えられている自室へと戻る。
障子を閉めきる。
途端に世界から隔絶される部屋。
雨の日特有の光の少ない、仄暗いしっとりとした空気も相まって、
遮蔽された小さな世界はとても居心地が良かった。
壁に背を預けて腰を下ろし、一人きり、細い雨の音を聞く。
春の雨は優しい。
秋の雨は優しく、そして少しばかり冷たい。
淀みなく注がれる雨の音。
それはまだ乾き切らない傷に静かに沁み入って、感傷という名の小さく甘やかな痛みを招く。


「まったく…、アンタの変態っぷりが移ったのかしらね」





『───…その痛みを、忘れるなよ』





「忘れないわよ…」





『俺の痛みを、忘れるな…───』





「───傷が痛む度に、こうしてアンタの顔を思い出してるんだから」





だから秋色の雨よ。
今しばらくは止まずに、どうかこのまま。


気付いてる、
痛いほどに。



十六夜記・1回目クリア記念、『私は知盛が好きなんだー』再確認夢第3段。

image music:【 Wind 】 _ Akeboshi.