「ソイツ、悪の科学者気取りね」


小料理屋には異分子としか言い様の無い緑色のブレザーの女子高生は、
軽やかに豚の角煮を口の中へ放り込むと「アホくさ」とばかりに肩を竦めた。


「はぁ? 誰のことだよ?」
「カテゴリ的には"玄人"のクセにそのザマだもんねぇ」
「あ?」
「うん、薫ちゃんのそゆトコわりと嫌いじゃないけど、
 一応の一公僕としてはどうなのとかちょっと心配になっちゃうよねー…」
「よね」
「あ、美和子さんもやっぱそう思います?」
「うん、思う思う」
「お〜ま〜え〜ら〜」
「たまきさーん、この煮卵入りの角煮美味しいですー」
「ふふ、ありがとう」
「聞けよ!」


薫の手荒いツッコミも何処吹く風。
二口目を口に運ぶと、箸を持つのとは逆の手を頬へと添えて、
「んー♥」と幸せそうに唸って租借する。
その様子を微笑ましげ眺めていた右京は、
ことりとお猪口を置くとやはり穏やかに笑んだままゆったりと口を開いた。


「今『悪の科学者』と、そう仰りましたね?」
「はい、仰りました」
「『悪』はともかくとして、『科学者』というくだりが今一つ解せないのですが」
「だって、その男の子って確か大学生でしたよね?」
「ええ」
「じゃあ卒論のタイトルはさしずめ『大金と大衆下心活劇』、
 私としては『大金による大衆の煽動と家畜化』ってのも捨て難いですけどー。
 あ、こっちの桜煮も美味しい」
「………」
「この蛸柔らかいですねぇ。
 やっぱり炭酸水で煮てあるんですか?」
「ううん、これは番茶を加えて煮てあるの。
 番茶でじっくり炊くと、箸で摘んで千切れるような柔らかさになるのよ」
「へー、さっすがたまきさん!」
「相変わらず言うこと為すこといちいち脈絡無いな、お前は…」
「わざとだもん」
「はぁ?」
「薫ちゃんは相変わらず言うこと為すこといちいち柄悪いよね」
「放っとけっ」
「じゃあ放っとく。
 たまきさん、桜煮おかわり下さーい」
「ふふ、はい。ちょっと待ってね」
「〜〜〜ッ!」
「あはは! 本当に放っとかれてるし!」
「笑うな、美和子!」





穏やかに笑い声が響く中、右京は一人白い猪口を満たす透明な水面を見つめていた。


玄人のくせに 
そのざま?