その電話が、自分に『人生初』の『それ』をもたらそうとは思いもよらなかった。





『もしもし』
「こんばんは。ちゃん」
『どうもこんばんはー、たまきさん』
「今電話していても平気かしら?」
『もっちろん。たまきさんからの電話なら最優先事項ですよー』
「ふふ、ありがとう。
 それでね、ちゃんは一月一日、空いてたりするかしら」
『? 空いてますけど』
「一日に皆で御節を食べようって話になってね。
 それでちゃんも良ければどうかしらと思って」
『…え、私ですか?』
『ええ』
『あー…、いいんですか?』
「何が?」
『だって…私なんか行ってお邪魔じゃないですか?』
「やだ、どうして?」
『いや、だってほら。
 正月だし"水入らず"とかそんな雰囲気が必要なんじゃないかなぁなんて…』
「あら、来てくれたら右京さんもきっと喜ぶわ。 勿論、私も嬉しい」
『えっと…、うーんと、……じゃあ喜び勇んでお邪魔させて頂きます』
「良かった」
『……『私はいつでも見限れる』なんて良く言ったもんね。
 げに恐ろしきは細君か…』
「え?」
『いーえ! たまきさんお手製の御節なんて楽しみー♥』
「そんな風に期待されたら張り切るしかないわね」





──────





「いやー! 年始から美人の女将さんが作る美味しい酒と御節、最高っスね!」
「あら、誉めても何も出ませんよ亀山さん」
「へへっ、もう一本土佐鶴つけて貰えたらなー、なんて」
「年始から恥ずかしいことしてんじゃないわよっ」
「っ痛ってェな! 何すんだよ、美和子!」
「お二人共、今年も早々から仲がよろしいようで。いや、結構」
「「右京さん!!」」
「こんにちはー」
「ああ、いらっしゃいちゃん」
「お邪魔しまーす」
「あ? じゃねーか」
「………何よ。悪い?」
「な、何だよ。
 声掛けただけだろ。そんな睨むなよ…」
「睨んでなんかないし。失敬な。
 私はたまきさんにお呼ばれしたから来たの」
「はい、ちゃん。
 右京さんの隣の席にどうぞ」
「はーい」
「明けましておめでとうございます」
「右京さん、明けましておめでとうございます♥」
「明けましておめでとー」
「美和子さんも明けましておめでとうございまーす。
 あ、そのいり鳥美味しそう」
「美味しいわよー。
 鳥肉がもう柔っらかくてレンコンがシャキっシャキ」
「わぁ。たまきさん、私にもいり鳥下さーい♥」
「ふふ、はーい」
「…オイ」
「んー?」
「俺には新年挨拶まるで無しかよッ」
「その台詞、そっくりそのままお返し奉り候う」
「何だその無駄な古語は。嫌味か!」
「あ、たまきさん。
 あと数の子もお願いしまっす☆」
「新年早々これなのかこれなんだな!?」
「ハブが嫌なら自分からご挨拶すればいいのに。
 しかたないなぁ。
 年が明けました。世の中おめでたいらしいです。
 あとそう、去年は色々とお世話しました」
「オイ」
「今年もまた色々と特に誰とは特定しませんけど、
 どっかの誰かさんのお世話をしそうな気配ムンムンですが…」
「誰のことだ!」
「自覚はあるのねぇ」
「あるみたいですねぇ」
「美和子! つか、右京さんまで…!」
「あはー。
 とにもかくにも、一応カッコ薫ちゃんも含めたカッコ閉じ皆様、
 今年もどうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくねー」
「ふふ、今年もよろしくねちゃん」
「ふんッ。…よろしくな」
「はーい、よろしくお願いしまーす♥」
「では一通り挨拶も済んだところで。さん」
「ふぁい?」
「こーら。女の子が口に物を入れたまま喋っちゃ駄目」
「……っと、はーい。
 鳥が美味しくってつい。
 で、改まって何ですか右京さん?」
「これをどうぞ」
「………これって…」
「お。お年玉じゃないですかソレ。
 なっつかしいなぁ」
「はい、私からも。
 少ないけど受け取ってね」
「え、でもたまきさん…」
「俺には無いんスかね?」
「おや、どうして同僚である君にお年玉をあげなければならないのですか?」
「……ですよねー…」
「これは私からね」
「うぉ、美和子まで用意して来てたのかよ」
「たまきさんから今日ちゃんが来るって聞いてたからねー。
 これは働くお姉さんとしては、可愛い女子高生にお年玉をあげなきゃと思って」
「………」
「何が働くお姉さんだよ……って、ん? ?」
「………」
「オイ」
「え、あ…何?」
「何ってお前、ボーッとしてたぞ?」
「あー……いや、まさかお年玉なんて貰えるとは思わなくって」
「ま、そりゃそうだな」
「喜んで頂けましたか?」
「あ、はい。…えっと」


その電話が、自分に『人生初』の『それ』をもたらそうとは思いもよらなかった。





「───…その、ありがとうございます」





こんなお年玉を貰えるなんて、
優しい大人達に囲まれて御節を食べるなんて思いもしなかった。





「そうやって日頃から素直なら可愛げもあるんだろうけどなぁ」
「薫ちゃんみたく日頃から色々と素直過ぎるのもどうかと思うけど」
「何だとォ…?」
「あ。来年は薫ちゃんの分のお年玉、私が用意してきますねー♥」
「ぶッ!!」
「あはははは! 女子高生からお年玉貰う刑事!
 一面は無理だけど投稿欄とかに持ってきてあげる」
「良かったですねぇ、亀山君」
「良くないっスよ!」
「で、たまきさんと美和子さんには何かプレゼントを…」
「もう、17歳が気を使わなくていいの!」
「そうですかぁ?」
「そうよ」


手の中には3つのお年玉袋。
胃の中には手作りの御節。
目の前には働くお姉さんと色々と素直過ぎる刑事と綺麗な女将さんと、そして。





「どうです、こういったお正月はお嫌いでしたか?」





(───とんだお年玉…、ま、今年1年は特命係にお付き合いしますか)


そう、何事にも
初めては
あるものだ



年賀状企画でupした【yin+yan=dou福袋】の再録。
いや本当、予想外にも福袋希望者が多くて本気で冷や汗かいたもんですよ…(遠い目)