「お前はイイ女だ」


今し方、自分が斬り伏せた男は腹の立つ程に満ち足りた笑みを浮かべていた。


「美しく、凶暴で…」
「行かせない…っ」
「お前ほど血の似合う女はいない」
「行かせないって言ってんでしょ…!」


頬に触れる生ぬるい温度。
自分の血か、相手の血か。
違う、これは相手の血だ。
知盛の血だ。
頬に触れているのは知盛の血で、知盛の掌だ。





「最期に見るのが血に塗れたお前とその泣き顔とは……まぁ上々だな」





初めて優しく求められた男の唇は、血の味がした。





「つあ"…ッ!!」


死角で、無造作に引っ掴まれた左肩の傷。
男の爪が傷口の肉に食い込み、凝固しかかっていた血が再度堰を切って溢れ出す。


「───…その痛みを、忘れるなよ」


低く、静かに囁かれた言葉。
それが鼓膜を震わし終わる前に傷口を掌で突かれ、後方へと突き飛ばされる。


「俺の痛みを、忘れるな」


見下ろす、酷く満ち足りた気高い獣の笑み。





「俺はこの痛みを忘れない…───じゃあ、な」





ああ、なんて綺麗で凶暴な、そして愛しい。


ああ、綺麗。



十六夜記・1回目クリア記念、『私は知盛が好きなんだー』再確認夢第2段。

image music:【 蛍火 】 _ 須藤まゆみ.