「『悪は人を魅了する』?」


『───君は一体何なのですか?』


「馬っ鹿みたい」
「馬鹿ってな…お前だってその一人じゃあなかったのかよ」
「はぁ?」
「『犯罪のプロ』なんだろ?」
「あのね、薫ちゃん。
 『犯罪のプロ』である私と単なる『犯罪ナルシスト』を一緒くたにする気?」
「違うのかよ?」
「失敬な。
 全然違いますー、ムカツク」
「イデッ!
 す、脛蹴るこたないだろ脛を!!」
「薫ちゃが馬鹿で失礼だから蹴られても仕方無いのー」
「何だよそれ!」
「そいつらはただ『悪』に陶酔傾倒してるだけでしょ。
 本来、犯罪に『悪』なんて属性要素は必要無いのよ」
「はァ? それこそ訳判んねーよ」
「薫ちゃんは単純だからねー。
 『犯罪=悪』とか直結しちゃってるんだよねぇきっと」
「犯罪つったらそりゃもう悪だろうよ」
「本当にそう思う?」
「本当も何も…」
「何故、犯罪は悪なの?」
「何故ってそりゃ」
「そもそも犯罪って何? 悪って何?」
「何ってお前…」
「あ、右京さん♥」
「へ?」
「こんにちは、さん」
「こんにちはー」
「亀山君と実に興味深いお話をされていたようですね」
「薫ちゃんのお脳が追い付いてこないんで実りはゼロですけど」
「何だとッ」
「亀山君」
「あ、はい…」
「やーい、怒られてやんのー」
「ッ!!  この口か、俺を詰るのはこの口かァ!」
「きゃー、暴力反対ー」


『犯罪は得てして人を不幸にすることがあります。
 むしろ不幸を生む場合の方が大半でしょう。
 だからこそ、私のような"犯罪のプロ"なんてものが生まれてくるのです』


「二人共、周りのお客さんに迷惑ですよ」
「だって、薫ちゃん?」
「お前もだろ!」
「あ、私のケーキセットきた」
「聞、け、よ!」


『人を裁けるのは事実だけですから』
『では協力して頂けると、そう理解してもよろしいのですね?』
『面白いことを仰りますね』
『履き違えている部分がありましたら、どうぞ御指摘を』
『なかなかに食えない方のようで』
『良く言われます』
『…ふふ、いいでしょう。
 "本業"に障らない範囲でならばお手伝いしましょう?』
『ありがとうございます』


「あ、すみません。
 メニュー持って来て貰えますか?」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
「いいえー、右京さんのためならお安い御用ですよ♥」
「…この態度の差は一体何なんだよ…!」
「貫禄の差?」
「言わせておけば…、おりゃ!」
「あー! 私のマロンー!」
「二人共」
「…すいません」
「…はーい」
「亀山君、君はさんのケーキ代を持つように」
「えぇ!?」
「わーい、右京さん大好きー♥」
「右京さんはコイツに甘過ぎるんスよ…!」
「おや、そうですか?」


『警視庁生活安全部特命係係長の杉下右京と言います』
『これは御丁寧に。
 私は今現在のところ、という戸籍で存在しています。
 …が、まぁお好きなようにお呼び下さい』
『貴女へ辿り着くまでに本当にたくさんのお名前を経由しましたからね。
 ではよろしくお願いします、さん』
『こちらこそよろしくお願いしまーす、右京さん♥』


人を裁けるのは 
事実だけ。