「あの女の得物は銃だ!!
 近付いてしまえばこちらのものだ、行けェッ!!」


男の野太い怒号に烏合の衆が弾けて蠢きだした。


「あーあ、馬っ鹿だねぇ」


女一人に群がり襲い掛かる雑兵の群れ。
対して女は銃を両手に構えたまま、顔色一つ変えず。


「姫さんが本当に得意なのは…」


ある者は地を蹴り、得物を振り上げ、女の頭目掛けて振り下ろす。
ある者は身を低め、得物を握り直し、女の胴目掛けて得物を突き出す。
ある者は声を挙げ、得物を横に薙ぎ、女の首目掛けて斬り上げる。

しかし。





「───接近戦だっつーの」





一閃。
白い煌めきが奔り、全てが弾き飛ばされた。





「我流なんて…一体何処で覚えて来たんだか」


つい数瞬前まで両の掌の中にあったはずの銃は既に両太腿のホルダーの中に。
代わりに今女の両手にあるのは赤く染め上がった2本の刀。
女の足下に転がる、つい数秒前まで雑兵であった2つが各々握り締めていたそれ。


「ほーら、呆けてる奴から死ぬぜ?」


状況を理解できず呆気に捕われ停止する群れ。
それに艶やかな笑みを向けて女は優雅に赤い線を描き出した。
悲鳴は無い。
戦場にあらざらまし静寂。
その中をただ刀が軽やかに舞い、生々しい音を奏でるのみ。


「…う、うわぁあぁぁあぁッ!!?」


一番先に我を取り戻したのは、文字通り斬り捨てられていく群れのずっと後方、
女を斬り殺せと命じた張本人である群れの長だった。


「『苦手克服』だっけか」


斬り捨てた雑兵達の死体を花道に女が一歩一歩と前へと進む。
と、右手に握る刀が鈍い音を立てて弾けて折れた。
しかし女の表情は変わらず。
歩む速度もそのままに、実に流麗な動作でもって、
絨毯となっていた事切れた雑兵の腰から刀を引き抜くと、
一刀から再び二刀へと戻り華麗な赤い二重奏を奏で出した。
されどしばしもすればまた刃が折れ飛び、宙を舞う。
今度は左が。
再度左。
ついで右。
もはや何本目かしれない。

まさに阿鼻叫喚。
狂い叫ぶ群れのその様はまるで地獄の責め苦に逃げ惑う亡者のように。


「『飛び道具は加減ができなくて苦手なの』、なーんて良く言ったもんだけど…」


白い軌跡が赤い糸を引き、連綿と死を描く。

兜を割り。
鎧を砕き。
矢を弾き。


「『二刀流は専門外』なんじゃなかったっけ?」


肉を裂き。
骨を潰し。
血を誘う。


「それとも俺に手の内を明かさないための嘘?」


触れるもの全てに等しく死を注ぐ。





「───能ある鷹は、って? やだねぇ、かっなしいなぁ」





一際大きな一閃。
焦点を移せば、軍団長の頭がゆったりとひと呼吸置いて首からごとりと地に落ちた。





「見物料取るわよ、佐助」
「あらま。バレてた」
「この職務怠慢忍者が…わざとらしい。
 気配も完全に消してなかったクセに良く言うわよ」


こちらへと振り向くこともない。

手にした刀を無造作に地面へと突き立て放り捨てて、
年頃の娘には相応しくない、何とも年寄りじみた動作で首をコキコキと鳴らす。
「やっぱり二刀流は何度やっても慣れないわね」。
何をいけしゃあしゃあと。
そんな不粋な感想はさっさと胃の奥へと飲み下した。


「それで? お館様は何て?」
「さっすが姫さん、いい勘してるねぇ」
「あのねぇ…、お館様の伝令以外にどんな用事があるのよ」
「ま、そりゃそうだ」
「幸村と合流するようにって?」
「ありゃ、本当に勘のイイこって。
 その通り。この場は後続の部隊に引き継いで、
 姫さんは尖兵になる真田の旦那が調子乗り過ぎないよう見張ってくれってさ」
「了解」


このいつになく血をまとった彼女の姿を見たら、旦那はどんな反応をするか。
慌てふためくだろうか。
案外、平然と労いの言葉付きで迎えるかもしれない。
どちらでもいい。
彼女について行くことを許されるだけの口実になるのならば何だって構わない。


「姫さん」
「何?」
「姫さんって結構イイ脚してるよねぇ」
「見物料は高くつくわよ」
「お友達割引とかにしといてくんない?
 ついでに分割とか使えると助かっちゃうんだけど」
「じゃあ利子と手数料も付けないとね」
「姫さん〜」
「はいはい。行くわよ」





言外にも同行の了承を得て、女の影となりその後を追った。


能ある鷹は、よ。



この夢はヒロイン、もとい姫さんへのラブコールが多かったです(笑)