「皆ー! 見て見てー!」


見事なはしゃぎようで科学班の扉をぶち破ったのは、
他に誰がいようか、黒の教団最高の知性である科学班室長、コムイ・リーだった。


「じゃーん!」
「室長、それって…」
「僕の頭脳をコピーした、名付けてコムリン零号機!
 その性能は…フッ、まあ敢えて言葉にするまでもないかな…」
「「「「「───室長!!」」」」」」


鼻高々にもコムリン初号機にここぞとばかりに頬擦りするコムイ。
それに群がり惜しみない涙を注ぐ科学班の面々。
手当の付かない残業の日々に、疲弊し切った男やもめ共は多少と言わず崩壊し気味だった。


「おにいちゃん、楽しそうだね!」
「そうねぇ」


一方、それらに実にさめざめとした眼差しを注いでは、
書類を捲りながらゆったりとマグカップのコーヒーを啜った。
そしてそんな白け返ったの膝の上には幼い黒髪の少女。
黒の教団室長の実妹にして、教団最年少エクソシストのリナリー・リーである。
に髪を結って貰い御満悦な様子のリナリーは、
やはりにいれて貰った特製のキャラメルスチーマーを、
愛らしくもふーふーと息で冷ましながらにぱりと笑った。


「しっかしコムイの頭脳を、ねぇ…」
?」


呟いて、肩肘をついたまま気怠げにコムリンを見上げた
と、サイドボードにカップを置こうとしたその手が中途半端に宙で停止する。
次いで訝しげなその表情が「げ…」と歪んで顰まるのに数秒と掛からなかった。
の変化に、ことりと小首を傾げるリナリー。
「リナリー、後でまた入れてあげるからカップ貸して」。
突然の、どうにも焦りの入り交じっているらしいの物言いに、
訳が判らないなりにもリナリーは素直に温かなマグカップを両手で差し出す。
「良い子ね」。
ニコリと笑ってそれを受け取っては、
受け取るなり自分とリナリーのそれを、
傍らの木製のサイドテーブルにではなく、
敢えて壁備え付けの本棚の、その本と本の隙間へと置いた。
「幸せなのは判るのだけどね…」。
ぽんぽんと眼下の小さな頭を撫でる。
そしておもむろに、未だか細いと言わざるを得ない身体を横抱きにも抱き上げた。
「ほえ?」。
頭上にいくつもの疑問符を浮かべて自分を見上げたリナリーに、
やはりにっこりと笑みを落とすとは真顔ならぬ真声で告げた。


「リナリー、しっかり捕まってなさい」


そして、その瞬間。





「───ふぇ?」





つい数秒前までとリナリーがくつろいでいたソファは、
コムリンの弾力ある両腕により岩床ごと削り取られた。





「きゃあ!!」
「!? コムリン!!?」
、リナリーの両エクソシストを確認』
「どうせこんなこったろうと思ったわ…」
「ふわ…っ、コムリンどうしちゃったの?」
「まぁコムイの脳みそ丸写ししたんじゃあねぇ」
『サ、…、リナリィイィらぁあぁぁあぁぶッ!!』
「こうもなるんじゃない?」


愛を喚きながら、とリナリーに向かって怪しくランプを点滅させるコムリン。
ジャキンッと開かれた機械、もとい疑似ゴーレムのその両掌の指は、
ちょっとしたホラーな器具の展覧会となっていた。
ジャキン、ジャキン。
尖刃刀、円刃刀、剪刀、鑷子、鉗子、持針器、開創器。
涼やかに、実にいい音を奏でている。

───刻まれる。
科学班満場一致の感想だった。


「少し考えなくとも判ることでしょうに」
「おわッ!?」
「はい、リーバーくん。
 リナリーをお願いね」
「うぇ!? あ、はい…!」


全員でもってコムイを盾にしその背の後ろに隠れる班員の、
その更に背後へと華麗な宙返りで着地したは、
抱えたリナリーを科学班の良心、リーバー・ウェンハムへと預ける。
そしてまたすぐに軽やかに瓦礫を伝いコムリンの眼前へと舞い降りた。
これから繰り広げられるであろう惨劇に、
背後から注がれたのは班員総出の惜しみないエール。
悲しいかな、生みの親の発する一筋の悲鳴がの鼓膜に受け入れられることはなかった。


「それじゃ、御声援にお応えして。
 ちゃちゃっとぶちまけちゃいますか」
!?
 ぶ、ぶちまけって…ななな何をするのさ!!」
「何って。明らかに失敗作でしょ、コレ」
「失敗じゃないよ! 『成功の元』だよ!」
「同じじゃないの」
「うわぁあぁぁあぁん!! コムリーン!!」





はぁ、年をとっただけの子供を大人と言うのかしら。
言ってはコムリンの残骸の頂上で、深々と溜め息を吐いた。


年をとった 
だけの子供を 
大人と 
言うのか。