「梵ー」
「あ"ー…?」
「起ーきーてー」
「起ーきーねー」
「起ーきーるー!」
「起ーきーんー!」
「梵は今すぐ起きたくなる梵は今すぐ起きたくなる梵は今すぐ起きたくなる」
「…だーッ!! 五月蝿い!!
 俺が一度寝たら自然に目蓋が開くまで起こすなっつってんだろうが!!」
「それは空五倍子にでしょ」
「あ?」
「私は言われてないし」
「…ふーん。面白いことを言うね」
「それはどーも」
「で、何で俺を起こしたい?」
「は? 何でって…そりゃお客さんが来てて、
 露草がまた癇癪起こして飛び出してっちゃって、
 空五倍子は追い掛けたいんだけどとりあえず梵の指示を仰がなきゃならなくて、
 でもその梵がぐーすか高いびきかいて寝っこけてたりしてて困ってるから」
「お前を起こしに寄越したわけか」
「違う。
 私"が"自分"から"起こしに来たの」
「へぇ…」
「空五倍子は梵に『起こしに来るな』って言われてるっていうから、私が」
「やっぱお前は面白いね。
 よし、じゃあおはようのキスで手を打ってやろう」
「…はぁ?」
「だから。キスしたら起きてやる」
「寝ぼけてんの?」
「必要ならそういうことにしておこうか」
「………判った」
「お?」





ちゅっ。





「………」
「キスはキスでしょ」
「デコだったけどな」
「れっきとしたキスじゃない」
「んー、俺が欲しいのはこういうんじゃなくってもっとエロイ感じの…」
「キスしてやったんだからさっさと起きろこの助平天狗!(秘技・布団返し)」
「うおっ!?」
「空五倍子ー! 梵起こしたー!」
「おぉ!」
「服と結い紐持って来て」
「うむ。判った」
「何だかね…」
「あ、そこ! 二度寝しようとしない!」
「判ってるよ」


夢の中で『帰りたい』と涙していた女、あれが誰だったかなど。


「寝ても覚めてもあれの顔というのも…悪くないね」


堪らず口付けた露のような女、あれが誰だったかなど。





「───さて、この口の寂しさをどうしてくれようか」





否、愚にもならぬ問いだ。


口が寂しいのは 
誰のせい?