あまりにも多くの事を語らずに俺は済ましてる。
「姫さーん、朝ですよー」
調子の良いふりを気取って。
飄々と戯けてなんて見せて。
誤魔化しはぐらかして日々を過ごしてる。
「ん…」
「ほら、姫さん」
「…寒い」
「そりゃ冬だし」
「あと一刻したら起きるわよ…」
「いや、それは寝過ぎでしょ。仕事どーすんの」
「ふふ…寝ても覚めても佐助の顔、ね」
「へ?」
「とりあえずどうにかしといて…」
「ちょっと、姫さん」
あまりにも多くの事を語らずに俺は済ましてる。
あまりにも多くの事を訊かずに姫さんは済ましてる。
でも俺と姫さんはこうして一緒に居る。
「………ありゃ本当に寝ちゃったよ、…珍しい」
語らずもその多くを汲み取ってくれる姫さんに甘えて、俺はこうして生かされてる。
「…姫さんって寝起き良さそうに見せかけて、実は朝弱いんだよねぇ。
春夏秋は気合いで何とかしてるみたいだけど…寒いと覿面っつーか」
俺はどれだけ姫さんの語らない部分を汲み取れているのだろう。
どれぐらい姫さんに甘えられているのだろう。
姫さんが生きるために、俺はどれだけ必要とされているのだろうか。
「可愛い寝顔しちゃってまぁ…」
どれだけでもいい。
きっと姫さんは俺なんざ居なくとも生きていける。
けれど、それでも。
『だって佐助は私のモノでしょう?』と。
こうして俺が傍らに在ることを姫さんは許してくれた、欲してくれた。
それだけが現実、それこそが真実なのだから。
「───まぁ、これも幸福税ってやつかね」
静かな寝息を立てるそれにそっと唇を落として姫さんの部屋を後にした。
寝ても覚めても
君の顔。
「真田忍隊の長の私的使用料も、案外大したことないのね」