「良く私だって判ったわね」
「お前のその瞳は、獣に相応しく気高く美しいが、
 獣と呼ぶにはあまりにも仕草が聡明で、瞳は深い知性の色を宿し過ぎている」
「これなら黒猫でなく、鷹にでも変じておくべきだったかしら」
「何様の衣を纏おうともその気高き双瞳は隠せぬ。無駄じゃ」
「それ、口説いてるの?」
「好きにとるが良い。
 私はお前のその宝石の原石の如き瞳が気に入っている」
「ふふ、誘っても駄目よ」


スランドゥイルの膝の上、悠然と頭(こうべ)を空へと巡らせた黒く小さな獣。
その体躯がすうっと空気に薄まる。
同時に濃く満ち広がる存在感。
王がゆったりとその口元へと不敵な笑みを敷く間に、
その膝には、黒いストールの貴婦人が腰掛け艶やかな笑みを浮かべていた。


「私にはもうグロールフィンデルっていう最愛の夫がいるからね」
「ふん…、何が"もう"か。
 黄色髪の妻となる以前より口説いてやってるというに」
「さぁて、どうだったかしら?」
「! 待たぬか」
「挨拶が遅れたわね。
 壮健そうで何より、久々に顔が見れて安心したわ」


じゃあね。

それはまさに瞬きする間。
黒きストールを翻す音共に、王の膝上から気高き両翼の獣が飛び立った。


高く、低く、
そして貫け。



高くは鷹の如く、低くは獣の如くにその心を。