それは何もかも、偶然が降り積もった結果だった。

魔法律家になろうと志したことは一度も無かった。
けれども私は今こうして魔法律家もそのトップである執行官などをしている。
それはまさに偶然が降り積もった結果だった。



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昔から霊の類いは視えていた。
が、それだけだった。
彼らと交信するといった器用な芸当はこなせなかったし、しようとも思わなかった。
元より、わざわざ襲ってくれなどと言う必要は無い。
それなりに自分の身は大切だった。
だからその日も、いつも通り視える霊の類いは端から一切無視して平穏に過ごしていた。
しかし。
目の前に落下してきた黒い影。
最初、何か解らなかった。
それが血にまみれた人間で、中年の男で、
場違いにも裁判官の格好をしていると理解するまで数秒掛かった。
目の真ん中の黒が開ききったそれは明らかに生きたものじゃない。
死体だ。
そう、死体が"空"から落ちて来たのだ。
ぎくりしゃくりと不自然に頭上を見上げる。
見上げてはいけないと頭の片隅はきちんと状況を理解し警報を鳴らしてはいたが、
奇しくも好奇心と恐怖を自制できるほどにその時の私は精神的な成長を遂げてはいなかった。
見上げたそこには予想した通り、異形の者。
醜く歪んだ霊魂。
もはや人の形を成していないそれは、いわゆる悪霊と分類される類いのものだった。
まずい。
思った時には既に時遅く。
卑下た口から唾液をしとどと滴らせて向かってきた醜い牙。
ダメだ。
内心そう諦めを呟いた瞬間、どうしてか自分の指が分厚い本に触れていることに気付いた。
死体が死して尚、爪を食い込ませてまで離さなかったらしいそれ。
何。
何だというの。
指先に光が集まる。
輝き出した分厚い本がまるで意志でも持つかのように自ずから項を捲り出し、
眼前の何なかったはずの宙から白銀の汽車を引きずり出した。

これが一つ目の偶然だった。



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その後、私は魔法律協会へと連れて来られた。
何てことはない。
あの死体となった執行官の相棒として同行していた
(物陰で一部始終を見ていた)(一切手は出さずに見届けた)裁判官が、
私をこの街へと連れて来たのだ。
日本らしからぬ街並を歩き、日本らしからぬ立派な建物の中に通され、
日本らしからぬ分厚い扉の奥に並んだ、日本人らしい強面の老人達と会った。
彼らには、現在の状況と今後の予定を告げられると共にじっくりと品定めされた。
どうやら私のこの霊を視る力は"煉"と言うらしい。
そして私はどうしてかその"煉"という力がずば抜けているという。
促されるままに、MLSへの入学が決まった。

これが二つ目の偶然だった。



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【Magic Law School】。
私のように霊の視える子供達が集まって、
【魔法律】というものを勉強している場所なのだという。
そのて程度の説明で私の入学手続きは完了された。
【魔法律】。
それは私があの時、偶然にも発動させてしまった不思議な力の行使方法。
これを使いこなせるようになることが、今私に期待されていることであるらしい。
促されるまま、流されるままに教室の前扉を押し開く。
そこで彼らに出会った。
ムヒョ、ヨイチ、そしてエンチュー。

これが3つ目の偶然だった。



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そう怠慢な私は、3つの偶然をただただ口を噤んで呑み干した。


いいから 
黙って呑み込め。



一応、前中後ぐらいの続きモノっぽいMLS時代夢。