パチン!


「じゃーん、プレゼント♪」


無意味な口頭の効果音付きで彼が宙から降らせたのは、
なかなかにシックでエレガントな黒のイブニングドレスだった。


「えー、私、中立がいいんだけど」
「ザギに操立て?」
「どんな。
 だって私リベザルの一件知ってるし」
「うんうん。
 知らないフリをしない、無駄な嘘は吐かないその潔さはの美点の一つだね」
「美点っていうか…秋に嘘なんて吐くだけ徒労ってモンでしょ。カロリーの浪費」
「お誉めに預かり至極光栄。
 知ってるなら尚更だよ。
 それに座木とリベザルがカイとどんな話をしたかまでは知らないんだろ?」
「あんまり会話を色々と平行させないでよ…、私そんなに頭良くないんだから。
 えっと、リベザル…というか座木さんがカイさんと実際どんなこと話たかは知らないけど、
 まぁ今、秋が勝手に喋ってくれたから何となく予想は…───え、何それ。
 ………うそ、もしかしてこれ最初から予定調和だったりするの?」
「はい、1名様ご案内〜」
「!」
「気付いちゃったんだからもう中立ではいられないよねぇ」
「な、何て正々堂々と卑怯な…っ!
 うわーんごめんなさい座木さんリベザルー」
「いいじゃん。これで2対2のフェアプレイだよ」
「いや、秋を1としちゃダメでしょ、うん。
 ついでに言うと私も1として扱ったらダメね。小数点付けて。
 っていうかリベザルは頭数としても含まれないの? それともカイさんは除外ってこと?」
「御想像ニオマカセシマス。
 謙遜は日本人の美徳の一つだけど、の美点にはならないよ。
 それじゃ善は急げってね。早速警備会社の皆さんに紹介しないと!」
「何故にカタコト。
 っていうかそれって誉めてんの? 貶してんの?
 あと『それじゃ』の『それ』という指示語の指す内容が意味不明」
「何なら僕の彼女ってコトで紹介するけど?」
「ああごめんなさい座木さんリベザル。
 世知辛い世間に揉まれ流され秋にハメられ、
 我が身の保身のために私はついに騙される方から騙す方への第一歩を踏み出します」
「アハハハハ! 僕ってカラかったんだー」
「辛いよ。涙も甘く感じられるぐらいの辛さよ。
 ……はぁ、後でいいからちゃんと全体像を説明してよ?
 で、とりあえず私はこの戦利品を使って何をすればいいの?」
「またまた〜、判ってるクセに〜」
「どこの悪徳訪問販売員…。
 端的に言うと、紳士の皆様を誘惑しつつ座木さんの度肝を抜いて来いと」
「Yes, that's right!」
「うーん、抜けるかなぁ。座木さんの肝」
「抜ける抜ける。もうイカのハラワタ引き抜くぐらい気持ち良く抜けるって」
「非生産的料理センス、破滅的料理音痴の秋が言うと説得力皆無ー」





ドレスを直に小脇にする女子高生と、その手を繋ぎ引っぱる美少年を乗せて、
GSCの黒ワゴン車はゆったりと深木山薬店を後にした。


正々堂々と 
卑怯なだけよ。



秋とヒロインはいたずらっ子のノリでつるんでるといい。
でもって座木さん2人揃って嗜められてキャッキャとはしゃいでると尚良い(笑)