「佐助の部屋って何処にあるの?」


それは姫君のそんな一言で始まった。


「何処だと思う?」
「屋根裏と地下」
「………もしかして姫さんもう俺の部屋に足を踏み入れて…」
「まさか」
「じゃあ何で」
「忍者といえば隠し部屋と相場が決まってるでしょう」
「決まってんの…」
「そう。例えばこんな掛け軸の裏に入り口があって…」


ガッコン


「………」
「………」
「佐助」
「は、はーい…」
「どうして私の部屋に隠し通路があるのかしら?」
「いや、それは…その、ね?」
「監視?」
「…まぁ最初はね」
「で、その後は?」
「……か、監視続行?」
「誰の命令よ」
「………お、俺かな…なんて」
「佐助」
「は、はいっ」


ズイッ


「当然、佐助の部屋まで案内してくれるのよね?」


ニッコリ


「………御意」
「話の判る忍は好きよ」
「でも結構狭いよ、この通路?」
「私じゃ通れそうもない?」
「いや、そりゃ姫さんなら通れるだろうけど」
「そこで通れないって言っとけばいいものを」
「はぁ…、俺が姫さんに嘘吐けないってよーく知ってんでしょ?」
「勿論」
「…我ながらタチの悪い姫さんに惚れちまったもんだ」
「後悔してるって?」
「いーえ」
「よろしい」


ゴソゴソ


「姫さーん、大丈夫?」
「これで音を立てずに移動するのよね…やっぱり忍って凄いわ…」
「へへ、見直した?」
「惚れ直した」
「………」
「照れるのは此処を抜けてからにしてくれると助かるんだけど」
「…御意」


ゴトンッ


「はい、とうちゃーっく」
「へぇ…結構綺麗に片付いてるのね」
「ま、性格でね」
「…ああ、成る程。
 だから呼べばいつでもどこでもしゅんっと湧いて出れるわけね」
「『湧いて』ってね、姫さん…」
「風が流れ込んでくるようになってるのかしら…城中の音が集まってくるのね」
「御名答」
「夏は涼しくて良さそうだけど…冬は寒くない?」
「ま、忍だし」
「大変なのね」
「ま、大事なお仕事ですから」
「私のお守りも?」
「うーん、姫さんのは大事な仕事でもあり…ま、役得って感じかな」
「そう」
「反応薄ッ」
「佐助」
「何すかぁ?」
「なに拗ねてるのよ。
 ちょっと耳貸して」
「…耳? どーぞ?」


ちゅっ


「!」
「ふふ、いつも御苦労様」
「あー…、いや、どうも」
「照れてる」
「照れてます」
「たまにはこういうバカップルもいいわよね」
「ばかっぷる?」
「そう、たまにならこんな"ままごと"みたいなのもなかなかに乙でしょ?」





後ろ髪を掻き回す忍に、姫君の御機嫌は上々だった。


ままごとな恋愛も 
また良し。



たまにはバカップルをと思って書いた夢。
バカップル夢はオチがつけにくくて困ります。…指輪夢なんか特に(笑)