03.


「───兄貴」


呼べば、静かに自分へと視線を巡らせたのはやはりその男だった。


「説明しろよ」


俺の知っている兄貴は、紛う事無く目の前のこの男のはずなのに。


「流魂街で俺を弟にしたのは、『利用できる』と思ったからなのか?」


俺の知っている兄貴。
瀞霊廷内随一の穏やかな物腰。
人は良過ぎる程に良くて、やらなくてもいい仕事を抱え込んでは良く残業してた。
女の子からも野郎からも人気があって、どの隊長よりも人望を集めてた。
『良い父親になりそう』ランキングではいつもダントツの1位だった。
綺麗な彼女がいて、酒のつまみとばかりに毎度のほほんとノロケてた。


「俺を『自慢の弟』だって言って笑ったのは…」


流魂街からの俺のたった一人の家族だった。
俺が死神になったのも、兄貴に勧められたからだ。
あらゆる意味で兄貴は俺の目標だった。
兄貴を超える、兄貴に吠え面をかかす、それが俺の目標であり夢だった。

けれど。


「俺に手駒としての利用価値を見い出したからなのかよ…ッ」


全ては、盤上の一手だったのか。


「そうだよ、


だったらなんで、そんな困ったような顔をするんだよ。


「お前には強くなる素質があった。
 それこそ僕の片腕に相応しいだけの力量がね。
 だから懐かせて、鍛えて、利用しようと思った。
 実際お前は僕程とは言わないが、他隊長と引けを取らないだけの強さを身に付けた…」


俺には判るんだよ。
あんたが努めて作って笑っているかどうかなんて。
何百年、あんたを見て生きてきたと思ってるんだ。


「本当に残念だよ、…───」





それとも、それさえもあんたの策略なのか。


杉吹く風に闇夜鳥

その声は懐古の覚え、悔恨の憂え

パッと思い付いたので、こんな小話を。

やまとことばで38のお題 】 03.杉吹く風に闇夜鳥『声はすれども姿は見えぬ』