04.
「日番谷隊長、桃を」
「あ、あぁ…」
突如現れた俺に驚愕を隠さない日番谷隊長を桃と一緒に背後へ押しやり、
目の前の男二人とようやくゆったりと対峙する。
一人は狐目の男。
一人は血の気の引いた唇を戦慄かせる長い片前髪の男。
三番隊隊長・市丸ギンと、同隊副隊長のイヅル。
歯の奥をかちかちと鳴らしながら上司の前に立つ友人は一瞥にとどめ、
抑え付ける気などもはやとうに失せた殺気を狐目の男に浴びせた。
「や、君」
柳に風とは良く言ったものだ。
壊れたように冷静な傍観部分がそんな意味の無い感想を述べた。
「あんたは藍染隊長を殺した…」
脳裏に甦るのは、五番隊隊長の無惨な死に様。
「あんたは俺の"兄貴"を殺した」
眼前にはにんまりという擬態語しか似合わぬような男の笑み。
「だから、俺はあんたを殺す」
「もっと冷静なコやと思ってたんやけどなぁ。そんな理由で命を捨てるん?」
けたけたと声を立てて笑う男は心底愉快そうで。
己の優位を微塵も疑っていないのだろう。
成る程、確かに疑う必要も無いのかもしれない。
この男は強い。
少なくとも兄貴をああして殺せる程度に。
イヅルが何をか訴えているようだったが耳に入らなかった。
どうでもよかった。
「俺の邪魔をするのなら斬る」。
ただそれだけだ。
「あんたは兄貴を殺した。だから俺があんたを殺す…」
狐目が更に深い弧を描く。
「───命を張るには充分だ」
なぁ、兄貴。
彼女泣かなかったよ。
空にかけ橋霞に千鳥
この怒りなど、彼女の悲しみに比ぶれば霞の一滴の如く
昔の別館SSを漁ってたら出てきたのでup1号。
【04】空にかけ橋霞に千鳥『とうてい及ばぬ』 _ 配布元:
やまとことばで38のお題サマ