09.
「」
顔を蒼白にして俺と狐目の間に立ちはだかったのは、震えるイヅルだった。
「何だ」
「僕は…」
「どけ」
「…っ」
「斬るぞ」
初めて見る俺に、血色を失っていた顔から更に音を立てて血の気を引かせる。
上司に対する部下の服従心か。
大したものだ。
哀れにこそ思ったが、それだけだった。
今の俺は、お前が友人だとかそんなことはどうでもいい。
あの男を殺すことを阻むのなら敵。
敵ならば斬る。
ただそれだけだ。
「…たとえ、たとえ君、でも…隊長に刃を向けるなら、僕は…っ」
「ならさっさと抜けよ」
「………」
「お前を殺してからそいつを殺す」
「手加減は、しないよ」
俺の『殺す』という言葉に反応したように、イヅルの顔にいくらかの生気が戻ってくる。
死神の性か。
それとも死んだ今も尚健在な生への執着、矛盾した本能か。
どちらでもいい。
どうでもいい。
「そうか…」
斬魄刀の鍔を親指の爪で弾く。
小さな金属音と共に、『彼女』が応える。
「───俺も、しない」
名を呼ばずにその姿を露にした斬魄刀にイヅルは顔だけで驚愕の悲鳴を上げた。
「そんな…まさか君、卍解を…ッ!?」
動揺するイヅルの呟きには答えず、始解と同時に瞬歩の3歩手前で真正面から斬り付ける。
それを未解放のまま斬魄刀で受け止め吹き飛んだイヅルに、
そのまま2歩手前の瞬歩で更なる追い打ちを掛けた。
イヅルの斬魄刀がどんなものか知らない。
イヅルが巧妙にも常から隠し通していたからだ。
ならば始解の暇は与えない。
俺の剣戟を防ぐのに手一杯になっていぶり出させたその隙を狙い、
斬魄刀を握る利き手の手首の骨を狙って、
存分に遠心力を乗せ振り抜いた鞘の底を微塵の狂いも無く打ち込む。
握った鞘伝いに細い骨が鈍いを音を立てたが、
その指の力が緩むことはなく、また斬魄刀がイヅルの手から落ちることはなかった。
歯を食いしばり、苦悶に歪むその顔。
「呆けてばかりいると何度でも殺すぞ」
「ッ!!」
そうしていちいち隙を見せてばかりでどうして副隊長など勤まるのか。
やはり冷静な傍観部分が独り言を呟く。
もしかしたらイヅルはまだ躊躇っているのかもしれない。
友人である俺に刃を向けることに。
そうであるのなら俺がお前に言えるのはこの一言しかない。
「───天風を具せ、蒼鳴空蝉」
悪い、イヅル。
「へぇ…、こらこないな所に番狂わせにも風雷系最強の斬魄刀の御登場や」
俺はお前を殺す。
「塵も残さない。天風に砕かれて滅しろ」
地面へと叩き付けたイヅルへと、蒼い刃を躊躇い無く振り下ろした。
安達が原
鬼は誰ぞ、鬼は彼ぞ、蒼き風の神也て