21.


「───まぁ、兄貴が結婚するまでには何とかするつもりだからさ」


久々に口にした高酒に、少々箍が外れてしまったらしい。

らしくもなく、随分と挑戦的なことを口にしたように思う。
なにせ要約すればそれは『打倒・兄貴!』と、高らかに宣言したようなものなのだ。
しかも最後は"ひやかし"で話を締め括ってやったりなんてしたのだから、
我ながらその無謀っぷりと酒の力に、心中涙を呑んで拍手を送った。


「はは…っ、それは楽しみだ」


眼前には可笑しそうに、しかし「臨むところ」とばかりに、
穏やかながらも何処か不敵な目元で笑う兄。
やはり兄貴には適わないと、そう思う。
何やら自分のガキっぽさが浮き彫りになってしまったようで、無性に気恥ずかしくなった。
「ちぇ、余裕かよ」。
拙い内心を誤魔化すように、兄の杯へとなみなみと次を注ぐ。
「さて、どうだろうな?」。
言って兄は、静かに受けた酌を一息に呷ると楽しげに笑った。


「しかしそうすると、には多少急いで貰わないといけないかもしれないな」
「は?」
が僕に泡を食わす前に、彼女が僕の妻になっているかもしれないよ?」


自分の前だと、ノロケも平然と口にすることの多い兄。
どうやらそれは今晩も例外ではないらしい。
先程の『打倒宣言』のお返しか何か、実にのほほんとそんな『結婚宣言』をしてくれた。
思わず口に含んだ兄貴の酌に思いっきり咽せ込んだ俺を誰も責められないだろう。


「………マジで?」
「まぁ僕としてはのんびりいこうとは思っているんだけどね」
「うっわー…、こりゃウカウカしてらんねぇ」


二人、存分に声を立てて笑う。
またこんな風に兄と酒を酌み交わす時には、『野望』を達成した後であればいい。


「それはそうと、には彼女ができたのかい?」
「ぐっ、自分に結婚間近の彼女がいるからって痛いトコロを…!」
「ははっ」





兄貴と、兄貴の奥さんと。
結婚までに聞かされた兄貴のノロケをつまみに、笑って酒を酌み交わせればいい。


花橘

色褪せた記憶は、今はもう取り戻せぬ優しい日々

男主人公の回想。
藍染さんみたいなお兄さんもいいなぁなんて思ったり。

やまとことばで38のお題 】 21.花橘『懐かしむこと』