ああ、今日も空が青い。


懐古的現在


「オイ!! 避けてばっかいねぇで攻撃してこいよッ!!」
「いや、そう言われてもこれが俺の戦法だしなぁ」


後手必勝。
そんな俺は専らのカウンター型だ。

時に(眼帯戦馬鹿保護者や鉄皮面シスコンから)問答無用にも正面切って堂々と、
時に(第2066回期入試主席から)背後から闇討ちにと、
常日頃から隊長格やら副隊長格から不意打ちまがいの攻撃を受けていれば
どうしたってカウンター専に、また嫌でも実力がつくってものだ。


「まぁ確かに多少飽きてきたのも事実だけどな」
「テんメェ…!!」


そんなこんなで。
恋次に誘われた手合わせを開始してから小一時間、
俺は攻撃へと一切転じることなく、
ただひたすらに、爽やかに、そして徹底的にと蛇尾丸の咆哮をかわし続けていた。


「ヒラヒラ、チョロチョロしやがって…調子ぶっこいてんじゃねぇぞ、うらァッ!!」
「おっと」


蛇尾丸が吼え切る。
恋次の悪い癖だ。
気が立つと、最大攻撃回数をフルに使って攻めてくる。
強力な技ほど後隙が大きいってのに。
まぁ恋次は判っていて敢えてこうして真っ向勝負を挑んでくるのだが。
まったく、俺には無い漢気だ。

その暑苦しさが時折羨ましくある時もあるが、好ましくも遠慮したく思うのが正直なところ。


「ほれ」
「チ…ッ!」


二連撃目の蛇尾丸の頭を丁寧に打ち返してやる。
首を唸らせて恋次の手元へと戻った蛇尾丸。
今、瞬歩で反撃したら一発だな。
恋次も喧しくなってきたことだしここらでそろそろ反撃一撃、仕留めておくか。
そんなことを考えて斬魄刀の柄を握り直し、かけて、やめた。

理由は簡単。


「おお! 噂には聞いていたが、本当に強いな、!」
「いやぁ照れるね」


いささか興奮ぎみに目を輝かせたルキアが、たった一人の観客席から声援を寄越したからだ。

蛇尾丸を片手間にあしらいながら、もう一方をひらひらと振って笑顔で答える。
恋次のこめかみにピキーンと見てからに青い筋が立った。
同時に、潔くも中距離攻撃から近距離戦に切り替えて向かってくる始末。
何とまぁ微笑ましい。
正直というか単純と書いてバカと読むというか。
こんなに判り易い男もいないと思うが、
こんなに判り易い男の、端からすれば明らかな恋心に、
数十年と気付かない令嬢もいるのだから更に微笑ましいことこの上無い。


「余所見してるたぁ随分と余裕じゃねぇか、ッ」
「いや、女の子の声援には笑顔で答えるのが男の務めってもんだろ?」
「意味判んねぇよ。…うらァ!!」
「甘い。まぁ、お前はルキア一筋だからな」
「っ!! ッ!!」
「隙有り」
「───が、ァ…ッ!?」


本日第一号のカウンター。
"切り返し"とほぼ同時に、ガラ空きな脇腹に振り抜きの回し蹴りを入れる。
続けて、吹っ飛んで軽く宙に浮いた恋次の背後へと瞬歩の二歩手前程度の速度で回り込み、
遠心力をたっぷりと乗せた刀背での抜刀の一撃を、打ち返すように横薙ぎに一閃。


「ッぐ…!!」
「おっ、相変わらずイイ反射神経してんな」


が、肘から上でガードされる。
恋次が苦痛に歪ませながらも不敵に笑んだ。

しかしそれすらも予測通りであるから。


「けど、惜しいな」
「ッ!?」


ガードされた反動を利用して、反転。
死角に潜ませていた、非利き手に握っていた鞘先を無防備な鳩尾へと打ち込む。
手応えアリ。
恋次の斬魄刀を握る手が緩んだ。
その隙を逃さず、そのまま横に滑らせた鞘で恋次の手首を打ち、蛇尾丸を叩き落とす。
一瞬後、地面に片膝を着いた恋次。

背後でルキアの歓声が上がった。


「ちっくしょ…」
「お前、折角いい腕してんだからもっと精神面鍛えた方がいいぞ?」
「チ…ッ、るっせぇな」
「あんまりルキアの前で赤っ恥はかきたくないだろ」
「なんでそこにルキアが出てくんだよ!」
「言って欲しいのか? 言って欲しいんだな?」
「コノヤロ…ッ!!」


斬魄刀を鞘へと戻し、上半身を起こした恋次に手を差し伸べれば、
ふてぶてしくもパシンッと爽快な音を立てて掴まれた。
全くもって素直じゃない。
そんなんだからルキア嬢にも気付いて貰えないんだろうに。
まぁ、それでこそ恋次という気もするが。


「そんじゃまぁ…ルキア、後よろしくな」
「は? 後?」
「オイ、…」
「そ。ちょっとばっかり真面目に一撃打ち込んでやったからさ。
 コイツこんな粋がってるけど、実は立ち上がるのがやっとの状態なんだよ」
!!」
「そう、なのか?」
「う…」


ことり、と。
小首を傾げて見上げてきたルキアに、お約束通りにも言葉詰まらせる恋次。
恋する男は見ていてかくも愉快なものか。
堪らず吹き出せば、恋次に思いっきりガン付けられた。


「つーわけで、この野良犬を四番隊詰所まで連れてってやってくれないか?」
「…ふむ、判った」
「ありがとな」
「ただしその代わり、今度は私とも手合わせをしてくれ!」
「ん? ルキアと、か?
 まぁ俺は構わないけど…(恋次はともかく、あの鉄皮面当主が恐いな…)」
「そうか、約束だぞ!」


珍しくもはしゃぐルキアの頭をくしゃりと撫でてやる。
それから視線を赤毛の仏頂面へと向ければ、またもや予想通りにもむくれていた。


「…お前、後で覚えとけよ」
「勿論、しっかりと覚えとくさ。
 さぁて、後で何奢って貰うかなー。
 とりあえずは心太で手を打ってやるよ」
「はぁ!? ふざけんなよ、お前!」
「何だ、は心太が好きなのか?」
「わりとね。ルキアは確か白玉ぜんざいが好きだったっけか?」
「ああ! あとウサギも好きだぞ!」
「(う、兎…?食うのか?) そっか。
 じゃあその時はルキアも一緒に行くか。勿論恋次の奢りで」
「ちょ、ちょっと待てよコラ…」
「ああ楽しみだ!」
「………。」
「俺も楽しみにしてる。なぁ恋次?」
「〜〜〜クソッ!!」





ああ、ほら
今日も空が青い。



青春ing。(笑)
もうホントに恋ルキ大好き。
そんでもってウチの男主は連殺型のカウンター。