快晴的世界


「阿散井君に吉良君、それに君!」
「! 雛森君」
「よぅ、雛森」


野郎が三人、修練場からの帰り道を色気も無く並んで歩いていると、
背後から掛けられたのは軽やかな女の子の声だった。


「おはよう、桃」
「おはよう君。はい、これ」
「ん? ああ、昨日言ってたヤツな。
 わざわざサンキュ……って、もしかして探させたか?」
「あ、ううん。大丈夫。
 詰め所に戻ってきた女の子達がね、
 君達が修練場で手合わせしてるって凄く楽しそうに騒いでるのを聞いてね。
 3人の顔も見たかったし、なら今持って行っちゃおうって思って持ってきただけだから」
「そっか。何にせよ手間掛けさせてごめんな。
 あとありがとう、桃。しっかりと読ませて貰うよ」
「うん! 後で感想聞かせてね」


そしてにこやかに両手でもって差し出されたのは文庫サイズの小説2冊。
昨日、自分が是非貸して欲しいと頼んだ物だ。
桃曰くの『藍染さんお勧めの一冊』であるという歴史小説。
二冊を笑顔で受け取って礼を述べる。
端から見ればまるでできたてほやほやのカップルといったところだろうか。

さもすれば。


「───『桃』?」


やはりというかなんというか。
そんな細かいツッコミを、というか不服申立てを差し挟んだのはイヅルだった。


「どうして君が彼女の事を呼び捨てに…?
 というか雛森君もいつからのことを名前で呼んで…」
「ん? 俺は大概、相手のことは男女問わず名前で呼び捨てだろ」
「それは、そうだけど…」
「ま、それに。
 俺と桃は"とある同志"の仲だし、特に仲良しだもんなー?」
「ねー!」


桃の朗らかな笑顔に、俺も努めて爽やかに仕上げた笑顔を合わせる。
勿論イヅルを焚き付けるための特注品だ。
ともすれば腹積り通りにも、ピシリと空気にひびを入れて固まったイヅル。
毎度の事ながら、げんなりとした表情を浮かべる恋次の真横から、
その抑え込んだ殺気が実に容赦無く(器用にも俺だけに向けて)突き刺さってくる。

それは「じゃあねー」と手を振り、軽やかに桃が立ち去ったとたん。


「───ぉっと」


侘助でもって斬り掛かるという形で体現化された。


「…一体何の同志だい?」
「それが人にものを尋ねる態度か、イヅル?」


にっこりとした、しかし『ゴゴゴ…』と背後に不吉な音を立てる笑顔を全面に押し出し、
問答無用にも襲いかかってきた侘助をがっちりと両手で白羽取る。
そしてイヅルを更に煽るように、無駄に丁寧な笑顔をこさえて向き合ってやった。
するとイヅルのそのにこやかな口元が僅かに引きつり、こめかみの辺りに青い筋が浮かぶ。
傍らでは、恋次が「その辺にしといてやれよ…」と呆れたように溜め息を吐いた。


「…僕の許可も無しに雛森君を呼び捨てにするなんていい度胸してるじゃないか」
「お前の許可がいんのかよ」
「恋次、そこナイスツッコミ」


今や隠さず殺気を放つイヅルに、恋次が的確ながらも力無い裏手のツッコミをかます。
ついで「どうでもいいけど、俺ら楽しく目立ってるぞー」と指摘すれば、
とりあえずは人目を憚ったのか黒いオーラと共に侘助を鞘に収めたイヅル。
すると深い溜め息を一つ、まるで自分こそが受難者であるかのように、
俺に向けて吐いて寄越した。

むしろ溜め息を吐きたいのはこっちだっての。





「で、結局。雛森とは何の同志なんだ?」
「ああ。『藍染隊長尊敬同盟』の同志」
「………は?」
「いや、だから。藍染さんを尊敬してやまない同志」
「君、どこまで本気なんだい…?」
「どこまでも本気だって」
「俺、時々お前のことが本気で判らなくなるぜ…」
「僕もだよ…」
「そうか?」



青春です。(何)
この3人内では、ツッコミ、ボケ、フォローはケースバイケースで持ち回り。
なんで恋次が男主にからかわれてると、フォロー役はイヅル。
ただし男主がボケると残り二人は自動的に揃ってツッコミに(笑)