回顧的光陰
「君はどうしてる?」
「卯ノ花隊長の許可を得て、藍染隊長の…亡骸に付き添っています」
「そう…」
安らかな、顔だった。
まるで眠っているような。
そんなありきたりな表現がしっくりとくるような死に顔だった。
常から穏やかであった友人。
多くの者達から尊敬され、慕われていた。
その人の良さそうな顔立ちを裏切らず、やはり過ぎる程に人が良かった。
「……昔」
「え?」
「惣右介君と飲んだ時にね、ぽつりと聞いたんだよ」
それは酒を酌み交わす時も変わらず。
やはり穏やかな声で、顔で。
しかしその時ばかりは、どこか照れたように笑って彼は。
「『どうして兄弟であることを隠すんだい?』って聞いたら、穏やかに笑い返されたよ」
『に言われてしまってね』
───俺はまだ、兄貴と肩並べて歩くには足りない。
───俺の目標は、兄貴の足下を掬ってそののほほん面に泡を食わせることだから。
───そこは"能ある鷹"で攻めるつもりだから、覚悟しといてくれよ?
『「まぁ、兄貴が結婚するまでには何とかするつもりだからさ」…ってね』
「あれで頑ななところがあるからな、君は。
殊更、自身の意志に関してはまさに頑固一徹だろう?
まぁ"能ある鷹"戦法は…結果的には僕らが少々狂わせしてしまったワケだけど」
目を瞑れば、記憶の中に甦る穏やかな友人の笑み。
もう二度と目の前にすることのできぬそれ。
そして。
「君にとって惣右介君は、"誇り"だったんだろうね…」
もう二度と目にすることはないだろう、誇らしげに兄の名を口にする弟の明け透けの笑み。
京楽隊長の回想。
次回は男主人公の回想を。