きらきら 
ひかる


自分の部屋の扉を開ければ、見事に自分以外の面子が顔を揃えていた。


「帰ったか、一護」
「お、おう」


いつの間にやらどこぞの青狸の如くに居候なルキアに、
かくかくしかじかでまたもや居候その2なぬいぐるみのコン。

そして。


「何だよ、お前も来てたのか」
「………お邪魔してます」


この、何でか知らねぇけどむっつりと敬語なんて使って寄越した、幼なじみの


「いや何、先週から今日貴様があの男子二人と出かけると聞いてたのでな。
 前から色々と鬼道についてが知りたがっていたこともあって私が呼んだのだ」
「そういうこと」
「ふーん」


何でこいつさっきから俺と目を合わせようとしねぇんだ?、とか。
一体何が気に入らなくてこんなにむくれてやがんだ?、とか。
言いたい事は、山とまでは言わずとも丘陵並みにありはしたけれど、
こいつがこうして極端に声色や言葉数を失くす時は大概、
とんでもなく腹立たしい事があったか、神経が麻痺るぐらい辛い事があったかのどちらだと。
それを口にできないのは、どうしてか自分の価値にとんと疎いコイツの性質故なのだと。
長年の付き合いから知っているから、文句全般はまとめて一気に胃の辺りまで飲み下した。


「じゃあ、そろそろ帰るわね」
「ああ、今日は楽しかったぞ! 機会が有ればまたいずれ」
「私も今日は凄く楽しかった。
 そうだ、今度は是非ウチに泊まりで来てよ」


未だドアの真ん前に突っ立ったまんま、そんな回想もどきな思考に浸ってると、
が床からゆったりと腰を上げた。
ルキアに向ける嬉しそうな表情は、全くもって普段のそれで。

俺の思い過ごしか?、とか。
実際にはそう大したことじゃないのかもしれない、なんて。
勝手にそう納得して、声を掛けた。


「んじゃぁ、送ってく」


けれど。
返事とばかりに向けられたのは、酷く温度の低い静かな瞳。


「? 何だよ?」


睨むという程のものでもないが、好意的でないことは明白な視線。
そしてようやく気付く。
ルキアとの話し方から考えて、こいつの不機嫌の理由がルキアにあるわけではなく。
けれど一歩踏み出したその足にセクハラまがいにひっつくコンの頭を撫でていることからも、
その原因がコンにあるわけでないことも判る。
そうすると、消去法からいって残った要素はただ一つ。

部屋に入って数十秒。


「結構よ」


…俺が一体何したってんだよ。


「あぁ?」
「だから一人で帰るって言ってるの」


うわ、思った以上に不機嫌最高潮だぞ、こいつ。


「はぁ?」
「じゃあねルキア、コン」
「うむ、ではな」
「また来て下さいねー!」
「何様だお前。」
「ギャー! 男の足の臭いが移る−!」
「じゃかしいッ!!」


まるで自分の家のような口振をふるまうぬいぐるみにそこはかとなくムカついて、
ライオンの後頭部を踵で抉るように踏み付けてやった。
そしてその横を何事も無いように素通りしやがる
どうやら不機嫌の元凶が俺であることはほぼ確定で。
けれど身に覚えもない理由でもってここまでないがしろに扱われると、
さすがにムカっ腹が立つというもので。

振り返って、その腕を多少乱暴にでもひっ掴んでやろうと思った。





「───…私が勝手に期待しただけだから」





けれど、それよりも一瞬早く。
ドアを閉めざまに寄越されたのは、少なくとも俺にしたら理解不能な台詞。

残されたのは、閉まるドアに遮られてあいつへと届かなくなったこの右手。


「ったく……何だってんだよ、アイツ」


行き場の無くなった手がむず痒くなって、紛らわすようにがしがしと頭を掻いた。
すると、「そういやの姉さん、今日は何だか心此処に在らずって感じだったな」などと、
何てことはなく足下のコンが呟く。


「んだよ、コン。お前も会話に混じってたのかよ」
「おうよ。もうルキア姐さんとの姉さん、両手に華でベッタベタよ!」
「死ね。」
「ギャー!!」


とりあえずは、眼下のクソ忌々しいぬいぐるみを、
足の裏全体を使って内臓(綿)をすり潰す勢いで抉り踏んで憂さを晴らしておいた。


「して、一護。お前は何をプレゼントしたんだ?」
「はぁ?」


『プレゼント』。
プレゼントってのは要するに世間一般にいう贈り物の事か。
だとしたらプレゼントが一体何だっていうのか。

脈絡もへったくれもない、
少なくとも俺には全くない。
ここまでくると論理の飛躍どころかむしろワープしてるだろソレ的な会話の流れに、
さすがにうんざりしてきた。

頼むから誰か通訳してくれ。
俺に足りない文脈と注釈を付け足してくれ。


「だから、お前はに何をプレゼントしたんだと聞いてるんだ」
「何の理由があって急に、俺がアイツに贈り物なんてしなきゃなんねぇんだよ」


するとゴトリ、と。
どうしてかそんな鈍い音を立てて固まったのはルキアとコン。


「あ? 何だよ、お前ら。息ぴったしじゃねぇか」


しかも更に、どうしてか俺の一言でピシリと空気に亀裂まで入る始末。


「お、おま…っ」
「あ?」
の姉さんに死んで謝れ───ッ!!」
「うおッ!?」


突如、繰り出されたぬいぐるみの拳。
うっかり左頬に喰らいかけたが、その腕の短さに救われる。
次なる攻勢を何とか後ろに飛んで交わしたが、
僅かに鼻先を掠めたそれからは、太陽と洗い立ての洗濯物の香りがした。
また遊子に生け捕りにされたな、コイツ。


「おい、ルキア! コイツお前のだろ!? どうにかしろよ!!」
「勝手に私の所持品にするな。…成る程」
「納得したなら早くしろー!!」
「一護、滅べ。」
「はぁ───ッ!?」


真顔で何言ってやがるこいつ。
『滅べ』宣告に頭にきて、掴んでいたコンをルキアに向かって投げ付ける。
厳密に言えば、座ったルキアのその足元へ、だが。
ぽむっと一回床でバウンドしたそれは上手い具合にルキアの膝の上に乗った。
と、とたんにコンが静かになる。
見ればルキアの膝に頬擦りして、ぬいぐるみのくせによだれなんて垂らしてやがる。
けれどすぐにルキアに汚物を扱うが如く指先で摘まみ上げられと、
ひょいと無造作に投げ捨てられた。
きらりと宙で水滴が輝いて消えた。
それがよだれでなしに、涙であることを祈る。
というか今日はまたいつになく輪を掛け哀れな奴だな。
そんな事を考えながら視線を戻せば、寄越された盛大な溜め息。
ついで予想外に穏やかな、要するに本気で呆れたような声色と口調だった。


「一護、今日はの誕生日だ」
「は?」
「だから、今日はがこの世に生まれ落ちた日だと言ってる」
「───ッ!!」
「それは腹も立つだろう。
 幼なじみであり親友であり、更に彼女でもある自分の誕生日に、
 幼なじみで親友での彼氏はといえば、
 自分の誕生日をすっかりと忘れて、一日中男友達と遊びほうけてるんだからな」


『少しでも期待した私が馬鹿だったわ』


「…っクソ!!」


さっきのの台詞がちゃんと意味と理由を伴って脳裏に甦る。
同時にめちゃくちゃ腹が立った。
少しだけアイツに、そして残り全部は自分に。

走る。
追う。
想う。
ただアイツだけを。


「あ、待てコノヤロウッ! 俺様が直々に…」
「まぁ待て、コン」
「姐さん!!」
「行かせてやれ」
「……姐さん…」
「うむ」
「そんなに俺と二人っきりになりたかったんスね…!」
「違うッ!!」



何が書きたかって、やっぱルキアとコンの漫才が…(オイ)