歩んで行くの。
前を向いて。


その先に在るもの


「…恋次、手と足が揃ってるわ」
「う"」


ギクリシャクリ、と。
同側の手足を揃えて歩いてしまっていることを指摘すれば恋次は、
慌てて修正しようとして見事につんのめった。


「ちょっと、大丈夫?」
「お、おう」
「少し近くを歩いて、緊張を解いてから行く?」
「…そうする」


恙無く入隊式も終わり、同じ五番隊への入隊が決まった私と恋次は今、
隊別の説明会に出るために五番隊詰め所へと揃って向かっている、まさにその道中。
式中から、珍しくもイヅル並みの極度の緊張状態をずっと引き摺っている恋次。
もう会場も出たのだから、いいかげん緊張もほぐれてきていい頃だと正直思うのだけれど。


「あー、クソっ。何でお前そんな落ち着いてんだよ…」
「生憎、そういう性質なのね」


その場にしゃがみ込み俯いて、盛大な溜め息を吐いた恋次に苦笑を落とす。
そういえば恋次は、昔から環境の変わり目に弱かったか。
ルキアも人的環境の変化にはとことん弱かったものだけれど。
今はもう見上げなければならない緋色髪を見下ろして、ふとそんなことを思い出した。


「それに…」
「あ?」
「決めたから」
「何をだよ」


緊張からの疲労感をたっぷり含み込んだ声で聞き寄越してくる恋次の、
その収まりの悪い緋色の髪をそっと撫でて、笑って見せる。
そして告げる。

死神となった私の、最初の決意を。


「決めたの、前を向いて歩いて行くって」


そう。
歩んで行くの。
前を向いて。
この足で、この道を、
自分の意志で歩んで行くの。

その先に彼らが居るから。
辿り着きたいと願う場所に、彼らが居るから。


「これからも恋次とルキアと生きて行くって、そう決めたの」


彼らと生きるために、前を向いて歩くと。
そう、決めたの。


「だから今の私は、こうして落ち着いていられるのよ」
「…そうか」
「そうなの」


ぽんぽん、と。
あやすようにその頭を柔らかく叩けば恋次は、
「いいかげん子供扱いすんなよ」とぼやいてすっと立ち上がった。
今はもう私の身長を追い抜いた緋色を追えば、自然と上がる目線。
視界を占める端正な、恋次の横顔。
その表情は、朽木家へと養子入りすることを決意したあの日のルキアの横顔と、
ほんの少しだけ重なった。


「───うっし。行くか」
「もう大丈夫?」
「おう」


恋次もルキアも、そして私も。
時期は違えど三人とも死神となった。
三人顔を合わせて笑う事はなくなったけれど、同じ時の流れの中で生きている。


「俺も決めたからな」
「あら、何を?」
「お前とルキアと一緒に生きていくって」
「恋次…」
「今そう、決めた」
「そう」
「ああ。だからもう大丈夫だ」





そう、私達の心は一緒に生きてる。





「───まずは入隊おめでとう。
 そして初めまして、僕が五番隊隊長の藍染惣右介だよ」





それぞれの辿り着く場所へと向かって、前を向き、そして一緒に歩んでいく。



ヒロインの辿り着く場所=藍染さん、ということで。
恋次夢に見せかけて、やはり藍染さん本命な夢(笑)
藍染さんとの初対面なシーンを書こうとして、何を間違ったかこんな恋次とのほのぼのな家族夢に。アレ?