私の時は。
あの日から止まったまま。
雪中の水
「貴方は卑怯です」
時は人を構成する。
呼吸する。
思考する。
感じる。
時の流れを認めて、初めて人は存在できる。
心が、意味を成す。
「卑怯者」
人は時を感じて、初めて世界を生じしめる。
「卑怯者…っ」
けれど。
「私はこんな紙切れが欲しかったんじゃない…!!」
私の時は。
あの日から止まったまま。
「貴方は何も言わなかった。
だから私も聞かなかった。
…貴方は笑ったから。
大丈夫だよって、笑ったから。
真実が欲しかったんじゃない。
ただ貴方の声が、言葉が欲しかった…っ」
止まった、まま。
「───…ちゃんと死のうと思っていたんですよ、私?」
私の世界は止まったまま。
私の心も止まった、まま。
「貴方が死んでしまったら、この命も掻き消して。
貴方のその優しさにつけ込んで、一緒に連れて逝って貰おうとそう決めていたのに」
なのに貴方は。
「こんな遺書を書き残すなんて、卑怯じゃない…ッ」
死んでもずっと君のことが好きだよ。
だから、生きて。
生きてそして僕のことを想い続けて。
死んでも僕は君を想い続けるから。
これは僕の最期の我侭だから、聞き入れてくれると嬉しいな。
「先手で私の想いへつけ込むなんて、卑怯だ…」
貴方は私に来るなという。
自分への想いに殉じて生きろ、と。
「私が貴方の願いを拒めないことなんて良く知ってるでしょう…?」
貴方は優しい。
だからこそ、狡い。
「知ってるくせに…っ、知ってた、くせに、っ、卑怯、者…!!」
そして貴方はもう、居ない。
「それが何処であったって、私はただ貴方の傍に居たいだけなのに…」
だから私の時は止まったまま。
「…貴方の傍に居たかっただけなのに」
私の世界も止まったまま。
「───私の心だけ連れて逝くなんて」
けれど、この心は今も。
「…どうしてこの身体ごと連れて逝ってくれなかったんですか、藍染さん…」
それは熱帯びた涙となって。
流れ逝く心の底から。
私はただひたすらに貴方だけを、想う。
藍染さん12巻表紙記念に。
というか記念にこんな暗いSSアップしてどうなのよ自分とかも思うわけですが、
やはりあの話も載ってるということ、こっちのSSをアップ。
御覧の通り『流れいく心の底に』とリンクしてます。