37.


「まぁボロボロになって…、
 しばらく見ない間に随分と男前が上がったじゃないの、十四郎、春水」


場違いも是に極まる様子でのほほんと登場したのは、
方や親友であり、方や愛弟子である一番隊総隊長特別補佐官だった。


…!?」
「……ありゃりゃ。格好悪いトコ見られちゃったね、こりゃ」
よ…おんしも此奴らめの悪さに一枚噛んでおったか」
「ご冗談を。
 そこのやんちゃ坊主2人ほど青くはありませんから」
「では何用で参った?」
「今回の混乱の首謀が判明致しましたので、御報告に上がった次第」


言って恭しく礼をとった
護廷・裏廷の公安を一握に統括する特務機関の長の仕草。
彼女がわざわざ現れた理由など言うに及ばない。
護廷の総隊長に八番隊と十三番隊の隊長2人が霊圧を衝突させる区域になど、
隊長格以下の死神が踏み込むことなどできるはずもない。
「こちらに」。
愛弟子が報告書らしい二本の巻物を片手にも差し出せば、
師は一瞥にとどめ、弟子である男二人に向き直った。


「そうか。ちぃと待っておれ。
 この坊主共に灸を据えてから聞くでな」
「ですから、その師弟喧嘩を止めるために私がわざわざ足を運んだんですよ」
「ならん」


まさに一蹴。
老体のまとう鮮烈な流炎がごおと逆巻く。





「───儂に牙を剥いた意味を此奴らに教えてやらねばならん」





脳髄を冷たく焦す、絶対的な霊圧。
しかし。





「ったくこの頑固ジジィが…───いい歳こいて熱くなってんじゃないわよ」





先程までの恭しさは何処へやら。
低く忌々し気に応えたのは、その黒曜の双眸に霜を降ろした女の方だった。





「! !」
「下がってなさい、十四郎」
「待ちなって、。やるなら僕らも…」
「それじゃ困るのよ」
「…何だって?」
「これ以上"あの男"の思惑通り、尸魂界の戦力を削がれるわけにはいかないの」


相対する師と弟子二人の対角線上に立って女はゆらりと師に向き直る。
まるで二人を庇い立てするかのように。
そう、庇い立てるのだ。
髪を掻き揚げは「相変わらず手間の掛かる師と親友ね」と吐き捨てた。


「…話はまとまったかの」
「まとめたわよ、この頑固ジジィ。
 いい? 沸騰したジジィ宥めてから…なんて時間が惜しいから、
 今現在の危機的状況を手っ取り早く戦いながら説明してあげるわ。
 ジジィだけじゃなく、十四郎も春水も頭冷やして上で耳かっ穿じって聞きなさいよ」


女の長くしなやかな指が斬魄刀の束に掛かる。
彼女が斬魄刀を抜く姿を拝むなど、もはやとんと久しい。
親友である男二人がごくりと喉を慣らしたのと同時に、
冴えた金属音が唸る流炎の中、涼やかに鳴った。
師をして『尸魂界で最も尊い造形』と感嘆させたそれが静かに姿を現す。





「逝くも還るも白きに絶えん」





尸魂界に唯一振、白光を宿した透明な刃。





「───浄滅せよ、破天光塵地はてんこうちりじ





光が世界を白く染め上げ、流れ哮る烈火を翻らせた。


連理の枝

我らは三翼にして一体の鳥、ならば

ただヒロインの斬魄刀が描きたかっただけとかそんなSS。

【37】連理の枝『一心同体の深い間柄』 _ 配布元:やまとことばで38のお題サマ