光音
世界



「何ですか…?」
「聞こえるかい?」
「…?」
「僕の心臓の音が」


とくん、とくん、と。
彼の心臓の音。
心地良い、その音。


「はい…」
「まるで、君を好きだと言ってるみたいだろう?」
「あ…」
、真っ赤だよ。今更だね」
「藍染さん…っ」
「はは」


素肌越しに伝わってくるその音に。
間近で鼓膜を振るわすその声に。


「僕にも聞こえるんだよ」
「え…」
の鼓動が」


どんな顔をしていいか判らなくて。
このいっぱいに満たされた胸の内をどうして良いか判らなくて。
泣き笑いのように答えれば、もう一度強く抱き返される。
彼の優しい腕の中で、とくん、とくん、と脈打つ私の身体。


「少し安心したよ」
「安心…?」
「そう。…ちゃんと、君の心臓も喚いてくれていた」
「…!」
「僕だけでなく」
「………」
「君もだった」


一層深くなる抱擁。
その体温から、声色から伝わってくる、彼の暖かい感情。


「好きだよ、


穏やかな笑顔。


「そんなの…私だって」
「そうだっだね」


嬉しそうにくすくすと彼が微笑えば、
触れあう箇所から直接伝わってくる振動。
本当にこの人は、どこもかしこも心地良くて。


「…藍染さん」


その熱は、まるで柔らかな日射しのようにやんわり私の肌を撫でて。
その髪は、まるで雨上がりの空のように淡く私の頬を包んで。

本当に幸せで。


「好きです」


それはどこまでも私を追ってきて。



「好き…」


もう、逃げきれない。


「…もっと」
「うん?」
「もっと言って下さい」
「何を?」
「私の事をどう思ってるのか」


もっと欲しい。

貴方の言葉が。
貴方の感情が。
貴方の笑顔が。


貴方が、欲しい。


「好きだよ、君のことが」
「…もっと」
、君のことが好きだ」
「どれほどに?」
「君のことがどうしようもないくらい好きだ」
「藍染さん…」
のことが、好きだ」
「………」
「好きだ…」


囁くような彼の声が、それに乗せられた熱が。


「…藍ぜ、…っ」
「どうせなら名前で呼んで欲しいな」


こんなにも私を欲深く求めさせる。


「惣右介、さん」
「"さん"もいらないよ」
「…惣右介……、さん」
「はは」


呼ばれた自分の名前が、それを構成するその音が。











世界を、こんなにも鮮やかに色付ける





「───君に出会えて本当に良かった」



何が言わせたかったって「まるで、君を好きだと言ってるみたいだろう?」の台詞。
ただそれだけのためのSS。(笑)